
関西の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法
目次
関西の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法
「営業を3名採用してほしい。できれば経験者で、コミュニケーション力がある人」
大阪・本町にある専門商社の社長から、こんな採用依頼を受けたことがあります。従業員80名ほどの会社で、関西一円に取引先を持つ中堅企業。人事担当者は「わかりました」と答え、求人票を作成し、人材紹介会社に依頼を出しました。
ところが、3か月経っても採用は進まない。紹介される候補者に「何か違う」と感じるものの、何が違うのか言語化できない。結局、「とりあえず会ってみよう」と面接を重ね、なんとなく良さそうな人を採用する。入社後に「思っていたのと違う」と現場から声が上がる。
この問題の根本にあるのは、「採用要件が経営戦略から逆算されていない」ことです。
「営業経験者で、コミュニケーション力がある人」——これは採用要件ではなく、漠然としたイメージにすぎません。経営戦略から逆算した採用要件とは、「なぜその人材が必要なのか」「どんな役割を果たしてほしいのか」「入社後にどんな成果を出してほしいのか」が具体的に定義されたものです。
私は関西の企業で採用に関わる中で、採用要件の設計が採用成功の最大の分岐点であることを実感してきました。経営戦略との接続がある採用要件を作れば、「誰を採るべきか」が明確になり、選考の精度も上がり、入社後のミスマッチも減ります。その具体的な方法をお伝えします。
なぜ採用要件を経営戦略から逆算する必要があるのか
理由① 「欲しい人」と「必要な人」は違う
現場から上がってくる採用依頼は、多くの場合「欲しい人」の要望です。「明るい人がいい」「即戦力がほしい」「若い人がいい」——こうした要望には、それぞれの事情があります。しかし、「欲しい人」が「経営戦略上、必要な人」とは限りません。
大阪のある機械部品メーカーでは、営業部長が「ベテランの営業経験者を採用したい」と要望していました。しかし、経営戦略を確認すると、今後3年で新規事業としてソリューション営業への転換を計画していた。従来型の営業経験者ではなく、課題解決型の提案ができる人材が本来必要だった。経営戦略から逆算することで、「本当に必要な人材像」が変わることは珍しくありません。
理由② 採用のムダを減らせる
採用要件が曖昧だと、採用活動全体がムダだらけになります。求人票を見た候補者が「自分に合っているか判断できない」、紹介会社が「どんな人を推薦すればよいかわからない」、面接官が「何を基準に評価すればよいかわからない」——すべてが曖昧さに起因する非効率です。
関西の人材紹介会社の担当者に話を聞くと、「採用要件が明確な企業は、推薦の精度が上がるので、少ない紹介で採用が決まる。要件が曖昧な企業は、何人紹介しても決まらない」と口を揃えます。採用コストの削減は、採用要件の精度向上から始まります。
理由③ 入社後のミスマッチを防げる
採用要件が曖昧なまま採用すると、入社後に「思っていたのと違う」が発生します。これは採用された側にとっても、受け入れる側にとっても不幸なことです。
神戸のあるIT企業では、「優秀なエンジニア」という曖昧な要件で採用した結果、技術力は高いが顧客折衝が苦手な人材を採用してしまいました。この企業のエンジニアは顧客との直接やり取りが多いポジションだったため、本人も周囲も苦しむ結果になりました。経営戦略から逆算して「技術力に加え、顧客折衝力が必要」と要件を定義していれば、防げたミスマッチです。
採用要件を経営戦略から逆算する5つのステップ
ステップ① 経営戦略・事業計画を確認する
まず、自社の経営戦略や中期事業計画を確認します。「今後3年で、何を目指すのか」「どの事業を伸ばすのか」「どんな変革を行うのか」——この全体像を把握することが出発点です。
確認すべき項目:
- 売上・利益の成長目標
- 重点事業・新規事業の計画
- 組織体制の変更計画(拠点の新設、部門の統合など)
- 技術革新やDXの推進計画
- 海外展開や新規市場への参入計画
大阪のある食品メーカー(従業員150名)では、人事担当者が中期経営計画を読み込み、「3年後に売上30%増、そのうち新規開拓による増加が半分」という目標を確認しました。ここから、「新規開拓ができる営業人材」が必要だということが見えてきます。さらに、新規開拓のターゲットがコンビニチェーンであることがわかれば、「コンビニ業界への営業経験」という具体的な要件が導き出せます。
ステップ② 戦略実現に必要な「組織の姿」を描く
経営戦略を実現するために、組織がどんな状態である必要があるかを描きます。「どの部門に」「どんな能力を持つ人材が」「何名必要か」を具体的に定義していきます。
京都のある半導体関連企業では、「3年後に自動車向け製品の売上比率を現在の20%から40%に引き上げる」という戦略がありました。この戦略を実現するために必要な組織の姿を描くと、以下のようになりました。
- 自動車メーカーとの関係構築ができる営業が、現在の2名から5名に必要
- 車載品質基準に対応できる品質管理者が、現在の1名から3名に必要
- 自動車業界の技術トレンドを理解した開発者が、現在の3名から5名に必要
「営業を3名増やす」という要望の背景に、「自動車メーカーとの関係構築ができる営業」という具体的な要件が見えてきます。
ステップ③ 「現在の組織」と「あるべき組織」のギャップを特定する
ステップ②で描いた「あるべき組織の姿」と「現在の組織の状態」を比較し、ギャップを特定します。このギャップが、採用で埋めるべき部分です。
ギャップの分析には、以下の視点が有効です。
人数のギャップ:必要な人数と現在の人数の差 スキルのギャップ:必要なスキルを持つ人材が不足している領域 経験のギャップ:特定の業界や職種の経験を持つ人材が不足している領域 マネジメントのギャップ:管理職やリーダー層の不足
大阪のあるシステム開発会社(従業員60名)では、「クラウド移行案件の拡大」が経営戦略の柱でした。現在の組織を分析すると、オンプレミスの開発経験者は豊富だが、クラウド(AWS、Azure)のスキルを持つエンジニアが2名しかいない。このギャップから、「クラウドスキルを持つエンジニアの採用」という要件が導き出されました。
ステップ④ 採用要件を「MUST」と「WANT」に分類する
ギャップを埋めるために必要な人材の要件を、具体的に定義します。このとき重要なのが、「MUST(必須条件)」と「WANT(歓迎条件)」を明確に分けることです。
MUST:この条件を満たさなければ、採用しても戦略上の目的を達成できない WANT:あれば望ましいが、入社後に育成可能、または代替手段がある
関西の企業でありがちなのは、MUSTとWANTが区別されないまま、すべてが「必須」として求人票に記載されることです。「業界経験5年以上、マネジメント経験あり、英語力TOEIC800点以上、コミュニケーション力が高い」——こうした「全部入り」の要件では、該当する人材がほとんどいなくなります。
神戸のある貿易会社では、以下のように整理しました。
MUST:
- 貿易実務の経験3年以上(入社後すぐに戦力として機能するため)
- 英語でのメール・電話のやり取りができる(海外取引先との日常業務に必須)
WANT:
- マネジメント経験(将来のチームリーダー候補として期待するが、入社後に育成可能)
- 中国語力(中国市場開拓を計画しているが、当面は通訳を活用可能)
- 同業界での経験(業界知識は入社後にキャッチアップ可能)
こうすることで、「まず会うべき人」の範囲が適切に設定され、採用活動の効率が上がります。
ステップ⑤ 要件を「行動」で定義する
採用要件は、抽象的な能力ではなく、具体的な「行動」で定義します。「コミュニケーション力が高い」ではなく、「顧客のニーズを聞き出し、社内の技術者に正確に伝えることができる」。「リーダーシップがある」ではなく、「5名程度のチームの業務を計画し、メンバーの進捗を管理しながら、納期内に成果を出した経験がある」。
行動で定義するメリット:
- 面接での質問が具体的になる(「前職で顧客のニーズをどのように聞き出していましたか?」)
- 評価基準が面接官の間で統一される
- 候補者自身が「自分に合っているか」を判断しやすくなる
大阪のある建材メーカーでは、「積極性がある人」という要件を、以下のように行動で再定義しました。
- 既存顧客に対して、定期訪問だけでなく、新商品の提案を自発的に行った経験がある
- 担当外の案件であっても、お客様からの問い合わせに「自分ごと」として対応した経験がある
- 社内の課題に対して、自ら改善提案を行い、実行に移した経験がある
こうした具体的な行動レベルの定義があれば、面接で確認すべきことが明確になります。
関西の企業が陥りやすい落とし穴
落とし穴① 「即戦力」への過度な期待
関西の中小企業では、「すぐに戦力になる人がほしい」という声をよく聞きます。限られた人員で事業を回しているため、育成に時間をかける余裕がないという事情は理解できます。しかし、「即戦力」という要件は、採用要件としては曖昧すぎます。
「即戦力」とは具体的に何を指すのか。「入社初日から一人で営業に回れること」なのか、「3か月で既存顧客を引き継げること」なのか、「半年で新規開拓の成果を出せること」なのか。この定義によって、求める人材像はまったく変わります。
「即戦力」を安易に求めるのではなく、「入社後3か月で○○ができる状態」「6か月で○○の成果を出せる状態」——時間軸を含めた具体的な期待値を設定することが重要です。
落とし穴② 「社風に合う人」の罠
「うちの社風に合う人がいい」——これも関西の企業でよく聞く言葉です。特に、社員同士の距離が近い中小企業では、「チームに馴染めるか」が重視される傾向があります。
しかし、「社風に合う」は、無意識のバイアスの温床になりやすい。「自分と似た人」を「社風に合う」と感じてしまい、結果として同質的な組織になる。経営戦略の観点からは、「既存の社風に合う人」よりも、「戦略実現に必要な多様性をもたらす人」が必要な場合もあります。
大阪のある商社では、長年「体育会系の元気な営業」を採用基準にしていましたが、新規にEC事業を展開するにあたり、データ分析やWebマーケティングのスキルを持つ人材が必要になりました。従来の「社風」とは異なるタイプの人材を受け入れるために、「社風に合う」ではなく「経営戦略に合う」という基準に転換した事例です。
落とし穴③ 「スペック競争」に巻き込まれる
関西の採用市場は、特にエンジニアや専門職の分野で人材の獲得競争が激化しています。そうなると、「他社より良い条件を出さなければ」と、年収や福利厚生のスペック競争に巻き込まれがちです。
しかし、中小企業がスペック競争で大企業に勝てることは稀です。それよりも、「この会社だからこそ得られる経験」「この会社でしかできない挑戦」を採用要件の裏側に持っておくことが重要です。つまり、「何を求めるか」だけでなく、「何を提供できるか」も含めて採用要件を設計するということです。
京都のあるベンチャー企業では、「年収では大手に勝てないが、CTOと一緒に新しいプロダクトをゼロから作れる経験は、大企業では得られない」というメッセージを採用要件とセットで打ち出し、志向性の合うエンジニアの採用に成功しています。
経営者と人事の「翻訳」が鍵になる
採用要件を経営戦略から逆算するプロセスで最も重要なのは、経営者の頭の中にある戦略を「採用要件」に翻訳する力です。
経営者は「来期は関東にも進出したい」「DXを推進したい」「新しい柱になる事業を作りたい」と語ります。しかし、これをそのまま採用要件にはできません。「関東進出」を実現するために、「どんなスキルを持つ人材が」「何名必要で」「いつまでに採用する必要があるか」を具体化するのが人事の仕事です。
大阪のある住宅設備メーカーの人事マネージャーは、毎月の経営会議に出席し、事業の方向性を常に把握しています。「経営者が何を考えているかを知らなければ、正しい採用要件は作れない。経営会議での議論を聞いて、『この戦略なら、こういう人材が必要になるだろう』と先読みして準備しておく。それが人事の仕事だ」と話してくれました。
この「翻訳」の精度を上げるためには、人事担当者自身が事業を理解していることが前提になります。自社の製品やサービス、顧客、競合、市場環境——こうした事業の基本を理解していなければ、経営戦略を採用要件に翻訳することはできません。
採用要件の見直しサイクル
採用要件は一度作ったら終わりではありません。経営環境の変化、事業戦略の修正、採用市場の動向に合わせて、定期的に見直す必要があります。
見直しのタイミング:
- 中期経営計画の策定・改訂時
- 年度予算策定時(来期の採用計画と連動)
- 四半期ごとの事業進捗レビュー時
- 採用活動の途中で、要件と市場の乖離が見えたとき
関西のある電子部品メーカーでは、半期に一度、経営陣と人事で「人材要件レビュー会議」を開催しています。事業の進捗と採用の進捗を突き合わせ、「当初の要件通りで問題ないか」「事業環境の変化に伴い、要件を修正すべきか」を議論する場です。この会議によって、「採用要件が半年前のまま放置される」という事態を防いでいます。
関西の採用市場を踏まえた要件設計
関西の採用市場は東京と比較すると求職者の母集団が限られる傾向があります。特に、専門性の高い職種では、条件を絞りすぎると候補者がいなくなるリスクがあります。MUSTとWANTの切り分けがより重要になり、MUSTを最小限に絞ることで採用可能性を高める工夫が必要です。
まとめ:採用要件設計チェックリスト
- [ ] 自社の経営戦略・中期事業計画を確認したか
- [ ] 戦略実現に必要な「組織のあるべき姿」を描いたか
- [ ] 現在の組織とのギャップを具体的に特定したか
- [ ] 採用要件をMUST(必須)とWANT(歓迎)に分類したか
- [ ] 要件を抽象的な能力ではなく具体的な「行動」で定義したか
- [ ] 「即戦力」の定義を時間軸を含めて具体化したか
- [ ] 「社風に合う」を無意識のバイアスなく定義できているか
- [ ] 採用要件を経営者・現場と合意したか
- [ ] 関西の採用市場の特性を踏まえた現実的な要件になっているか
- [ ] 半期に一度の見直しサイクルを設定したか
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