
関西の中小企業で人事が経営に関わるということ——「人件費は投資か、コストか」から始まる議論
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関西の中小企業で人事が経営に関わるということ——「人件費は投資か、コストか」から始まる議論
「人件費は固定費やから、できるだけ抑えたい」——関西の中小企業の経営者から、こういう言葉を聞くことがある。気持ちは分かる。人件費は毎月確実に出ていく最大の固定費の一つであり、売上が下がっても支払い義務が残る。コスト意識が強い大阪の経営者ほど、人件費の上昇を警戒する。ところが、人件費をコストとだけ見ている企業と、投資として扱っている企業では、10年後の組織力に大きな差が生まれる。人事が経営に関わるということは、まさにこの「人件費の投資対効果」を経営者と一緒に設計することから始まる。
「人事は経営に関われていない」の本当の原因
「人事が経営会議に呼ばれない」「経営者が人事の提案に関心を持ってくれない」という悩みを抱える人事担当者は少なくない。この原因を「経営者が人事の重要性を理解していない」と解釈すると、解決の方向性を間違える。
経営者が人事の話に関心を持たない本当の理由は多くの場合、「人事の提案が経営数字に接続していないから」だ。「従業員エンゲージメントを高める施策を提案したい」という内容が、「そうすると売上や利益にどう影響するか」という経営の言語に変換されていなければ、経営者の意思決定には入っていかない。
経営者は毎日「この投資はどれだけのリターンをもたらすか」という問いと向き合っている。人事の提案がこの問いに答えられる形になっていなければ、それは経営課題として認識されない。「人事の話をもっと聞いてほしい」と思うなら、経営者が毎日向き合っている「数字の問い」に答える言語を持つことが先だ。
関西の経営者は特に「言葉より数字」の傾向が強い。「組織が良くなる」という感覚論より、「採用コストが年間○○万円削減できる見込み」「離職率が1%下がると○○万円のコスト削減になる」という試算の方が、会話の入り口になりやすい。
人件費を「投資」として語るための計算
人件費を投資として語るためには、まず「人件費の投資対効果」を試算する視点を持つ必要がある。これは完璧な精度の計算でなくても構わない。「おおよそこれくらいの効果が期待できる」という試算が、議論の起点になる。
採用コストの観点
中途採用一人のコストは、求人媒体費・面接工数・入社後の育成コストを合わせると、最低でも50〜100万円程度になることが多い。早期離職が起きるとこのコストがリセットされる。年間5人の早期離職を防ぐことができれば、250〜500万円のコスト削減に相当する。この数字は、エンゲージメント施策や育成制度への投資規模と比較できる。
生産性の観点
人材の定着と育成が進むと、業務の習熟度が上がり、一人あたりの生産性が高まる。たとえば年商5億円の会社で、1人あたり売上が1%上がると500万円の売上増になる。組織が変わることで売上にこれだけの影響があるという試算を、経営者と共有することが、人事の経営参画の始まりだ。
採用コストの費用対効果を変える観点
優秀な人材を採用するためには、採用媒体費だけでなく、「自社の魅力を高めること」への投資が必要だ。職場環境の整備、評価制度の整備、育成制度の整備——これらは単なるコストではなく、採用力・定着率を高めるための投資として経営に説明できる。
「人件費が高い=コストが高い」ではない発想の転換
関西の中小企業で「給与を上げると経営が苦しくなる」という考え方が根強い背景には、「給与は固定費であり、経営の余裕がないと上げられない」という発想がある。
しかしこれを逆から考えると、「優秀な人材に適切な給与を払えていないから、優秀な人材が集まらない・定着しない→組織の生産性が上がらない→経営の余裕が生まれない」というサイクルが見えてくる。人件費を抑えることが経営の余裕を作るのではなく、適切な人件費投資が生産性向上を通じて経営の余裕を作る、という逆の因果関係だ。
この発想の転換を経営者と共有するために有効なのが、「一人あたり売上・付加価値」の推移だ。給与水準を上げた結果として、一人あたりの生産性が向上しているかどうかを数字で追うことで、人件費投資の効果を可視化できる。
「人を大事にしろ」という感情論ではなく、「人への投資が数字を動かす」という経営論として話せる人事が、関西の中小企業で経営に関われる。
経営会議に人事が参加するための「準備」
「経営会議に人事として参加したい」と思うとき、「参加させてほしい」と言うより、「経営会議に貢献できる情報を持っていく」という姿勢の方が現実的だ。
経営会議で人事が提供できる情報には、以下のようなものがある。
組織の定量データ:離職率・採用コスト・残業時間・有給取得率・欠員状況など。これらを経営数字と並べて提示することで、「組織の健全性」を経営指標の一つとして提案できる。
採用市場の情報:関西エリアの採用倍率・競合他社の給与水準・採用チャネルの動向など。経営者が「最近採用難しいな」と感じていることに、「市場全体でこんな変化が起きています」という情報を添えることで、議論の質が上がる。
組織課題の仮説と対策のセット:「離職率が上がっている原因と思われること」「今後のリスクと対策」という構造で情報を持っていくと、問題提起だけでなく解決の視点も提供できる。
重要なのは「人事の視点」を持ち込むことではなく、「経営の視点で語れる人事情報」を持ち込むことだ。この違いが、経営会議での人事の存在感を変える。
関西企業での「人事戦略」の立て方
大企業が策定するような「人事戦略」を、そのまま関西の中小企業に持ち込む必要はない。しかし「自社の事業計画に合わせた人事の優先課題」を整理することは、どの規模の企業でも必要だ。
関西の中小企業が人事戦略を立てるとき、出発点は「3年後の事業計画」だ。売上・利益・新規事業・拠点展開などの事業計画が明確になっていれば、「そのためにどんな人材が何人必要か」「今の組織と未来の組織のギャップは何か」「そのギャップを埋めるために何をするか」という問いに答える形で、人事の優先課題が見えてくる。
事業計画がない(または曖昧な)企業では、まず経営者との対話から「3年後にどんな会社にしたいか」を引き出すことが、人事の仕事の出発点になる。この対話を経営者が「人事との無駄な時間」と感じるか「経営の議論ができる相手」と感じるかが、人事の経営参画の分岐点だ。
「人事コスト」を見直すことも人事の仕事
経営参画という文脈では「人事が経営に貢献する」ことが強調されるが、「人事業務そのもののコスト効率を上げる」ことも経営貢献の一形態だ。
給与計算・勤怠管理・社会保険手続きなどの労務業務は、適切なシステムを活用することで工数を大幅に削減できる。人事担当者が2人で年間200時間を単純作業に使っているなら、その工数を「採用戦略の設計」や「管理職のトレーニング」に転換することが、組織への貢献度を高める。
「効率化の投資が、より価値ある仕事への時間を生む」という試算を出せると、システム導入の予算承認も取りやすくなる。人事が自分の業務コストを管理できることも、経営参画の一部だ。
まとめ
関西の中小企業で人事が経営に関わるためのポイントを整理する。
- 「経営者が人事を理解していない」ではなく、「人事が経営数字の言語で話せていない」という視点で自己点検する
- 人件費の投資対効果(採用コスト・生産性・定着率)を試算し、経営数字として語れる準備をする
- 「人件費が高い=悪い」ではなく、「適切な人件費投資が生産性を高める」という因果関係を経営者と共有する
- 経営会議には「組織の定量データ」「採用市場情報」「課題と対策のセット」を持ち込む
- 3年後の事業計画から逆算した「人事の優先課題」を整理し、経営対話の材料にする
- 人事業務のコスト効率化も、経営貢献の一形態として設計する
経営に関わる人事は、「人に良いから」という一つの根拠だけで動かない。事業に何をもたらすか、数字でどう変わるか、経営と同じ視点で考えることが、関西の現場での人事の価値を高める。
経営との対話設計、人事戦略の立て方、投資対効果の示し方——これらの実務を体系的に学べる場として、人事のプロ実践講座を開講している。
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