
大阪の中小企業が「採用マーケティング」を始める方法
大阪の中小企業が「採用マーケティング」を始める方法
「求人を出しても応募が来ない。ハローワークに出して、求人サイトにも掲載して、人材紹介会社にも声をかけている。でも、紹介される人材は自社に合わない人ばかりだし、求人サイト経由の応募は書類選考で8割落ちる。採用に年間400万円かけているのに、まともに採れたのは2名だけ。1名あたり200万円のコストです」
大阪・心斎橋にある住宅リフォーム会社の社長が、苦い表情でそう話してくれました。従業員45名。慢性的な人手不足で、営業職と施工管理の採用が追いついていない。求人を出し続けているが、「来てほしい人」が来ない。
この状況は、大阪の中小企業に共通する課題です。求人媒体に広告を出して「待つ」採用——いわゆる「掲載型」の採用手法だけでは、中小企業はもう人材を確保できなくなっている。大企業と同じ土俵で求人広告を並べても、知名度も条件面も劣る中小企業が選ばれる可能性は低い。
私は大阪の中小企業の採用支援に携わる中で、従来の「求人広告を出して待つ」採用から、「自社の魅力を発信し、求職者に選ばれる」採用への転換が必要だと強く感じています。この転換を実現するアプローチが「採用マーケティング」です。
採用マーケティングと聞くと、大企業がやるものだと思われるかもしれません。しかし、大阪の中小企業だからこそできる採用マーケティングがあります。大掛かりな予算は必要ありません。自社の魅力を正しく理解し、それを適切な相手に届ける——その方法をお伝えします。
採用マーケティングとは何か
採用マーケティングとは、マーケティングの考え方を採用活動に適用するアプローチです。
従来の採用は、「ポストが空いたから求人を出す」という発想で行われてきました。求人広告を出し、応募者が来るのを待ち、来た人の中から選ぶ。これは、マーケティングに例えると「チラシを配って、来店を待つ」手法です。
採用マーケティングでは、求職者を「顧客」のように捉え、マーケティングの手法を使って「自社に来てほしい人材」にアプローチします。
採用マーケティングの基本フレームワーク
採用マーケティングは、求職者の意思決定プロセスに沿って設計します。
まず「認知」の段階。求職者が自社の存在を知る。次に「興味」の段階。自社に興味を持つ。そして「検討」の段階。自社への応募を検討する。さらに「応募」の段階。実際に応募する。最後に「入社」の段階。内定を承諾し、入社する。
従来の採用活動は「応募」の段階にのみ注力していました。採用マーケティングでは、「認知」から「入社」までの全プロセスを設計します。
大阪の中小企業が採用マーケティングを始める5つのステップ
ステップ1:自社の「採用ターゲット」を明確にする
マーケティングの基本は「誰に売るか」を明確にすること。採用マーケティングも同じです。「いい人が来てくれれば」ではなく、「どんな人に来てほしいか」を具体的に定義します。
ターゲットを定義する際のポイントとして、まずスキルや経験だけでなく「価値観」も定義する。中小企業の採用では、スキルよりも価値観のフィットが重要です。「自ら考えて動ける人」「チームワークを大切にする人」「地域に根ざした仕事に価値を感じる人」——自社のカルチャーにフィットする人材像を明確にする。
次に、ターゲットの「転職行動」を理解する。採用ターゲットが転職を考えるとき、どんな情報を探すのか。どの媒体を見るのか。何を判断基準にするのか。これらを理解することで、アプローチの方法が見えてきます。
大阪のある設備工事会社では、採用ターゲットを「30代前半、施工管理経験3年以上、大阪で家族と暮らしたい人」と定義しました。このターゲットは、東京の大手ゼネコンで働いているが、長時間労働に疲弊し、地元の大阪に戻りたいと考えている人——という具体的なペルソナまで掘り下げました。
ステップ2:自社の「採用における強み」を言語化する
中小企業は、大企業と給与や福利厚生で競争するのは難しい。しかし、中小企業には大企業にはない魅力がある。その魅力を言語化し、採用のメッセージとして発信する。
大阪の中小企業が持ちうる魅力の例を挙げます。
経営者との距離の近さ。中小企業では、経営者と日常的にコミュニケーションが取れる。経営判断のプロセスが見える。自分の仕事が会社の業績にどう貢献しているかが実感できる。
裁量の大きさ。一人が担う業務の幅が広く、若いうちから責任のある仕事を任される。「歯車の一つ」ではなく、「なくてはならない存在」として仕事ができる。
成長の速さ。大企業では10年かかる経験が、中小企業では3年で得られることがある。多様な業務を経験でき、スキルの幅が広がる。
地域密着。大阪・関西の地域に根ざした仕事ができる。転勤がない。地域の顧客と長期的な関係を築ける。
職場の雰囲気。アットホームな雰囲気。社員同士の距離が近い。風通しが良い。
これらの魅力は、中小企業で働く社員自身に聞くのが最も確実です。「なぜこの会社で働き続けているのか」「前職(大企業)と比べて、この会社の良いところは何か」——社員の生の声が、最も説得力のある採用メッセージになります。
ステップ3:「情報発信」の仕組みをつくる
採用ターゲットと自社の強みが明確になったら、次はその情報を発信する仕組みをつくります。
発信チャネルの例を挙げます。
自社採用サイト。自社のWebサイトの中に、採用に特化したページを設ける。求人情報だけでなく、社員インタビュー、職場の雰囲気、会社のビジョン——求職者が「この会社で働くイメージ」を持てるコンテンツを掲載する。
SNS。Instagram、X(旧Twitter)、YouTubeなど、採用ターゲットが利用しているSNSで情報を発信する。職場の日常、社員の声、会社のイベント——「人事部が発信する公式情報」ではなく、「中の人のリアルな声」が求職者の心に響きます。
noteやブログ。社長や社員が記事を書き、会社の考え方や仕事の面白さを発信する。記事は検索エンジンからの流入も期待でき、「この会社を知らなかった人」にリーチできる。
大阪のある中小の食品メーカーでは、社長自らがnoteで記事を書き始めました。「町工場の社長が考えていること」というテーマで、経営の考え方、社員への想い、商品開発の裏話を月に2本のペースで発信。半年後、記事を読んで応募してきた候補者が3名いました。いずれも自社のカルチャーへの共感が高く、そのうち2名が入社しています。
ステップ4:「候補者体験」を設計する
採用マーケティングでは、候補者がアプローチから入社までに経験するすべての接点(候補者体験)を設計します。
候補者体験のタッチポイントを整理します。求人情報の閲覧から始まり、採用サイト・SNSの確認、応募、書類選考の結果通知、面接のスケジュール調整、面接(一次・二次)、社内見学・職場体験、内定通知、入社前フォロー、入社初日——これらすべてが候補者体験です。
各タッチポイントで、候補者にどんな体験を提供するかを設計する。
特に重要なのが「面接」の体験です。中小企業の面接で候補者が感じるのは、「この会社の人たちと一緒に働きたいか」です。面接を「選考の場」としてだけではなく、「お互いを理解する場」「自社の魅力を伝える場」として設計する。
大阪のあるIT企業では、面接の最後に必ず30分の「逆面接」の時間を設けています。候補者から会社に対して自由に質問してもらう時間です。どんな質問にも率直に答える。給与のこと、残業のこと、社内の人間関係のこと——タブーなく答えることで、候補者からの信頼を得ています。
また、最終面接の前に「職場見学」を実施し、実際に働いている社員と話す機会をつくっています。この職場見学で「ここで働きたい」と感じてもらえれば、内定承諾率が格段に上がります。
ステップ5:「採用データ」を分析し改善する
採用マーケティングでは、データに基づいて採用活動を改善していきます。
追跡すべきデータとして、まず応募経路別の応募数と採用数。どのチャネルからの応募が、最終的な採用につながっているかを把握する。次に、選考段階別の歩留まり率。書類選考通過率、一次面接通過率、内定承諾率——どの段階で候補者が離脱しているかを把握する。そして、採用チャネル別の費用対効果。各チャネルに投じたコストに対して、何名の採用につながったかを算出する。さらに、入社後の定着率とパフォーマンス。採用チャネルや面接評価と、入社後の定着率やパフォーマンスとの相関を分析する。
これらのデータを四半期ごとに分析し、効果の高いチャネルに投資を集中し、効果の低いチャネルは見直す。採用活動を「やりっぱなし」にせず、PDCAサイクルを回すことが、採用マーケティングの精度を上げていきます。
大阪の中小企業の「採用力」を高める工夫
工夫① 社員を「採用大使」にする
中小企業の最大の採用チャネルは「社員紹介(リファラル)」です。社員が自分の知人や前職の同僚に「うちの会社、いいよ」と声をかけてくれることほど、効果的な採用チャネルはありません。
社員が自発的に人を紹介したくなるためには、まず社員自身が自社に満足していることが前提です。社員のエンゲージメントが低い状態で「知り合いを紹介してくれ」と頼んでも効果はない。
エンゲージメントが高い前提で、社員紹介制度を整備する。紹介のインセンティブ(紹介謝礼金)を設定する。紹介しやすいツール(自社の魅力をまとめたパンフレットやWebページ)を用意する。「紹介してくれてありがとう」という感謝の文化をつくる。
大阪のある人材サービス会社では、採用の50%以上が社員紹介経由です。社員紹介で入社した人材は、入社後の定着率も高い。「どんな会社かを事前に理解した上で入社している」からです。
工夫② 「大阪で働く魅力」を訴求する
大阪・関西には、東京にはない「働く魅力」があります。その魅力を採用メッセージに組み込む。
生活コストの優位性。住居費は東京と比べて大幅に低い。同じ給与でも、大阪の方が生活にゆとりが生まれる。
通勤環境。東京に比べて通勤時間が短く、満員電車のストレスが少ない。大阪の中心部でも、自転車通勤が可能な距離に住める。
食文化とエンターテインメント。大阪の食文化の豊かさ、京都・神戸へのアクセスの良さ。ワークライフバランスを充実させやすい環境がある。
地域コミュニティのつながり。大阪の中小企業は、地域のコミュニティとのつながりが強い。「地域に貢献する仕事」への実感が持てる。
特にUIターン人材(大阪出身で東京に出ている人、東京から大阪に移住したい人)をターゲットにする場合、これらの魅力は強力な訴求ポイントになります。
工夫③ 「選考スピード」を武器にする
中小企業の採用における大きな強みは、意思決定の速さです。大企業の選考は、書類選考から内定まで1〜2か月かかることも珍しくない。中小企業であれば、応募から内定まで2〜3週間で完結させることも可能です。
選考スピードの速さは、候補者にとって「自分を大切にしてくれている」というメッセージになります。書類選考は3日以内に結果を連絡する。面接の日程は候補者の希望に柔軟に対応する。面接後は翌日に結果を連絡する——こうしたスピード感が、大企業との競争で中小企業が勝てるポイントです。
採用マーケティングの「予算」の目安
中小企業の採用マーケティングにどの程度の予算をかけるべきか。現実的な予算配分の考え方をお伝えします。
最小予算での始め方(月額5万円程度)
自社採用ページの作成・更新。社員インタビューの掲載。SNS(Instagram・X)での定期的な発信。noteでの記事執筆。——これらは、社内のリソースで対応可能です。写真撮影や記事作成を社員が担当すれば、外部コストは最小限に抑えられます。
標準的な予算(月額10〜20万円程度)
上記に加え、求人媒体への掲載(厳選した1〜2媒体)。職場の写真や動画の撮影(外部カメラマンに依頼)。採用サイトのデザイン改善。——求人媒体は「とにかくたくさん出す」のではなく、採用ターゲットが見ている媒体に絞って投資する。
重要なのは、従来の「掲載型」の採用予算を、採用マーケティングの予算に振り替える発想です。求人サイトに年間200万円を払うのであれば、その半分を自社の情報発信に投資する方が、長期的には採用力の向上につながります。
採用マーケティングは「経営投資」
採用マーケティングは、単なる「人事の仕事」ではなく、「経営投資」です。優秀な人材を確保できるかどうかは、事業の成長を左右する。採用マーケティングに投資し、「求職者から選ばれる会社」になることは、中長期的な事業競争力の強化につながります。
大阪の中小企業には、大企業にはない魅力がたくさんあります。その魅力を正しく言語化し、適切な相手に届ける——採用マーケティングは、その橋渡しをする活動です。
「求人を出して待つ」時代は終わりました。自ら情報を発信し、求職者に「この会社で働きたい」と思ってもらう。そのための第一歩を、今日から踏み出してみてください。
人事図書館では、採用マーケティングの実践方法や中小企業の採用戦略に関する知見を共有しています。関西の中小企業の人事担当者同士がつながり、学び合える場です。
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