大阪のSaaS企業がカスタマーサクセス人材を育てる方法
採用・選考

大阪のSaaS企業がカスタマーサクセス人材を育てる方法

#1on1#エンゲージメント#採用#評価#研修

大阪のSaaS企業がカスタマーサクセス人材を育てる方法

「カスタマーサクセスの部署を作ったんですが、何をする部署なのか、本人たちもよくわかっていないんです」

大阪・梅田にあるBtoB向けSaaS企業の社長から、率直な相談を受けました。従業員40名ほどの成長中のスタートアップで、サブスクリプション型のビジネスモデルに転換して3年目。解約率(チャーンレート)が想定以上に高く、「カスタマーサクセスチーム」を立ち上げたものの、メンバーはカスタマーサポートとの違いもよくわからないまま手探りで動いている——そんな状況でした。

SaaS企業にとって、カスタマーサクセスは事業の根幹に関わる機能です。新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持コストの5〜7倍と言われています。つまり、一度契約してくれたお客様に継続利用してもらうことが、収益の安定と成長に直結する。その「継続利用」を実現するのがカスタマーサクセスの役割です。

しかし、カスタマーサクセスは日本ではまだ歴史の浅い職種であり、経験豊富な人材は少ない。特に関西のSaaS市場はまだ発展途上にあり、東京と比べて人材の流動性も低い。外部から採用するのが難しいなら、社内で育てるしかありません。

私は、大阪を中心にいくつかのSaaS企業でカスタマーサクセス組織の立ち上げに関わってきました。その経験をもとに、カスタマーサクセス人材をどう育てるかについてお伝えします。


カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い

まず、混同されやすい「カスタマーサクセス」と「カスタマーサポート」の違いを明確にしておきます。

カスタマーサポート:お客様から問い合わせがあったときに対応する「受動的」な機能。問題の解決が主な目的。

カスタマーサクセス:お客様が自社サービスで「成功」するために、能動的に働きかける機能。お客様の事業成果を引き出すことが主な目的。

この違いを理解することが、カスタマーサクセス人材の育成の出発点です。サポートは「困っているお客様を助ける」仕事であり、サクセスは「お客様が成功する道筋をつくる」仕事です。

大阪のあるSaaS企業(従業員30名)では、カスタマーサクセスチームの立ち上げ当初、メンバー全員がサポート出身だったため、「問い合わせ対応の延長」として仕事を捉えていました。「お客様から連絡がないときは暇」という状態。しかし、カスタマーサクセスの本質は「お客様から連絡がなくても、能動的にアプローチする」ことにある。この意識転換が、育成の第一歩でした。


カスタマーサクセス人材に求められる5つのスキル

スキル① ビジネス理解力

お客様の事業を理解し、「自社サービスがお客様のビジネスにどう貢献するか」を考えられる力。単に製品の機能を説明するのではなく、お客様の業務課題を理解し、サービスの活用方法を提案できることが求められます。

スキル② データ分析力

お客様のサービス利用データを分析し、「このお客様は解約リスクが高い」「この機能をもっと活用すれば成果が出る」といった示唆を導き出す力。感覚ではなくデータに基づいて行動できることが重要です。

スキル③ コミュニケーション力

お客様との関係を構築し、信頼を得る力。特に、「お客様の本音」を引き出すヒアリング力と、「わかりやすく提案する」プレゼンテーション力が求められます。

スキル④ プロジェクトマネジメント力

お客様のオンボーディング(導入初期のサポート)や活用支援を、計画的に進める力。複数のお客様を同時に担当しながら、それぞれの進捗を管理し、適切なタイミングでアクションを取る力です。

スキル⑤ 自社プロダクトの深い知識

自社サービスの機能、活用方法、制約を熟知していること。お客様の課題に対して「こう使えば解決できます」と即座に提案できるレベルの理解が必要です。


カスタマーサクセス人材の育成プログラム

フェーズ1:基礎理解(1〜2ヶ月目)

最初の1〜2ヶ月は、カスタマーサクセスの基本概念と自社プロダクトの深い理解に集中します。

学習内容:

  • カスタマーサクセスの定義、役割、KPI
  • サブスクリプションビジネスの基本構造(ARR、チャーンレート、LTV、NRRなど)
  • 自社プロダクトの機能、活用事例、制約
  • 競合サービスの特徴と自社サービスの強み
  • お客様の業界知識と事業課題

大阪のあるHR Techスタートアップ(従業員25名)では、新入社員が最初の1ヶ月で自社サービスを「お客様として」使い倒す研修を実施しています。実際にデモ環境でデータを入力し、分析し、レポートを作成する。「お客様の体験」を自ら経験することで、お客様の視点でサービスを理解できるようになります。

フェーズ2:実践トレーニング(3〜4ヶ月目)

基礎を理解した上で、先輩のカスタマーサクセスマネージャー(CSM)に同行し、実際のお客様対応を学びます。

実践内容:

  • 先輩CSMのお客様ミーティングに同席し、議事録を担当する
  • お客様のサービス利用データを分析し、レポートを作成する
  • 先輩の指導の下、お客様への定期連絡を担当する
  • ロールプレイで「お客様への提案」の練習を行う

神戸のあるFinTech企業(従業員35名)では、「シャドウイング」制度を設けており、新人CSMが先輩の全ミーティングに3ヶ月間同席します。ミーティング後に「今の対応のポイントは何だったか」「なぜあの質問をしたのか」を先輩が解説する時間を必ず設けています。

フェーズ3:独り立ち(5〜6ヶ月目)

先輩の監修の下で、自分のお客様を担当し始めます。

独り立ちの段階:

  • まず、リスクの低い(解約可能性が低い)お客様から担当する
  • 先輩CSMが「メンター」として定期的にフィードバックする
  • 週1回の1on1で、課題や困っていることを相談できる場を設ける
  • 3ヶ月後に「独り立ち判定」を行い、一人での担当を正式に承認する

大阪のSaaS企業が直面する育成の課題

課題① 「ロールモデル」の不在

東京のSaaS企業にはカスタマーサクセスの経験者が多く、社内にロールモデルがいることが多い。しかし、大阪のSaaS企業では、カスタマーサクセスの経験者自体が少なく、「誰の真似をすればいいかわからない」状態になりがちです。

対策:東京のSaaS企業のカスタマーサクセスコミュニティ(CS HACK、Success Labなど)にオンラインで参加し、他社の事例を学ぶ。大阪でもSaaS関連のミートアップが増えており、地域のコミュニティを活用する。外部のCSコンサルタントに定期的にアドバイスをもらう体制を作る。

課題② 「何を教えればいいか」が整理されていない

カスタマーサクセスの業務内容が体系化されていないため、育成プログラムを作ろうにも「何を教えればいいかわからない」状態。

対策:まず、現在のCS業務を棚卸しし、必要なスキルと知識を一覧にする。そこから逆算して、育成プログラムの内容を設計する。完璧なプログラムを最初から作る必要はなく、「まずはこれを教える」という優先順位をつけて、走りながら改善していく姿勢が大切です。

課題③ 人材のバックグラウンドの多様性

カスタマーサクセスは比較的新しい職種のため、営業出身、サポート出身、エンジニア出身など、さまざまなバックグラウンドの人が集まります。それぞれに強みと弱みがあり、画一的な育成プログラムでは対応しきれません。

対策:個人のバックグラウンドに応じた育成計画を作成する。営業出身者にはデータ分析力を重点的に、エンジニア出身者にはコミュニケーション力を重点的に——個別の強化ポイントを明確にする。


カスタマーサクセスのKPIと人材評価

カスタマーサクセス人材の評価は、適切なKPIの設定がカギです。

短期的なKPI(個人レベル)

  • お客様との定期ミーティングの実施率
  • オンボーディング完了率(導入初期のマイルストーンの達成)
  • お客様満足度スコア(NPS、CSATなど)
  • 問い合わせへの初回応答時間

中長期的なKPI(チームレベル)

  • 解約率(チャーンレート)の低減
  • ネットリテンションレート(NRR)の向上
  • アップセル・クロスセルの金額
  • お客様の成功事例の創出数

大阪のあるSaaS企業(従業員50名)では、CSチームの評価を「解約率」だけでなく、「お客様の成功指標」で測定しています。例えば、人事管理SaaSであれば、お客様企業の「評価面談の実施率」「社員のエンゲージメントスコア」など、お客様側の成果をKPIに組み込んでいます。「お客様が成功すれば、解約は自然と減る」——この因果関係を評価制度に反映させているのです。


カスタマーサクセスチームの組織設計

チーム構成のパターン

大阪のSaaS企業の規模感(従業員20〜100名程度)では、以下のようなチーム構成が現実的です。

  • 初期(お客様数50社未満):兼任CSM 1〜2名。営業やサポートのメンバーがCSM業務を兼任する
  • 成長期(お客様数50〜200社):専任CSM 2〜4名。CSリーダーを1名配置。オンボーディング専任とリテンション専任で役割を分担
  • 拡大期(お客様数200社以上):CSチーム5名以上。ハイタッチ(大口)、ロータッチ(中口)、テックタッチ(小口)で担当を分ける

ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの使い分け

  • ハイタッチ:CSMが個別に手厚くサポート。大口のお客様向け。月1回以上の定期ミーティング
  • ロータッチ:グループセミナーやメール配信で効率的にサポート。中規模のお客様向け
  • テックタッチ:アプリ内ガイドや自動メールでサポート。小規模のお客様向け。人手をかけずにサポートを提供

梅田のあるマーケティングSaaS企業(従業員45名)では、月額利用料10万円以上のお客様をハイタッチ、3〜10万円をロータッチ、3万円未満をテックタッチと区分し、それぞれに適した支援体制を構築しています。


関西のSaaS企業ならではの強み

「お客様との距離が近い」

東京の大手SaaS企業と比べて、関西のSaaS企業はお客様との距離が近い。関西圏内のお客様であれば直接訪問しやすく、「対面でのサポート」が差別化要因になります。テクノロジーだけでなく「人の温かさ」も提供できることは、関西のSaaS企業の強みです。

神戸のあるSaaS企業(従業員20名)のCSMは、お客様のオフィスを定期的に訪問し、「使い方のレクチャー」を対面で実施しています。「画面越しでは伝わらないニュアンスが、対面だと一発で伝わる」——この「対面の力」は、解約防止に大きく貢献しています。

「大阪の商売人気質」

大阪の企業文化にある「お客様第一」「商売人気質」は、カスタマーサクセスの本質と通じるものがあります。「お客様に儲けてもらって、うちも儲ける」——この発想は、まさにカスタマーサクセスそのものです。

「関西のSaaSコミュニティの成長」

大阪を中心に、関西のSaaS関連のコミュニティが活発化しています。スタートアップの交流イベント、SaaS勉強会、CS関連のミートアップ——こうしたコミュニティを活用することで、他社のベストプラクティスを学び、自社の育成に活かすことができます。


カスタマーサクセスは「コストセンター」ではなく「プロフィットセンター」

最後に、経営者の皆さんに伝えたいことがあります。カスタマーサクセスへの投資は「コスト」ではなく「収益の源泉」です。

チャーンレートが1%改善すれば、ARR(年間経常収益)にどれだけのインパクトがあるか。既存顧客へのアップセルが10%増えれば、新規獲得にかかるコストをどれだけ削減できるか。こうした数字で考えると、カスタマーサクセス人材の育成は「投資対効果」の高い取り組みだとわかります。

大阪のSaaS企業が、カスタマーサクセスの力で持続的な成長を実現していくこと。そのためには、「人を育てる」ことが不可欠です。短期的な成果を急がず、腰を据えて人材を育てていく。その積み重ねが、関西発のSaaS企業の競争力を高めていくはずです。


まとめ:カスタマーサクセス人材育成チェックリスト

  • [ ] カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いをチーム全体で共有しているか
  • [ ] CSM に求める5つのスキルを明確にしているか
  • [ ] 育成プログラム(基礎→実践→独り立ち)を設計しているか
  • [ ] 自社プロダクトを「お客様として」使う研修を実施しているか
  • [ ] シャドウイングやOJTの仕組みを整えているか
  • [ ] カスタマーサクセスのKPI(解約率、NRR、顧客満足度など)を設定しているか
  • [ ] ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの区分を定めているか
  • [ ] 関西のSaaSコミュニティや勉強会に参加しているか
  • [ ] カスタマーサクセスを「コスト」ではなく「投資」として経営者が認識しているか
0

人事の知見が集まるコミュニティで、実践知を学びませんか?

人事図書館は、人事のプロフェッショナルが集まる学びのコミュニティです。