
大阪の卸売市場・商店街企業が人材を確保する採用の考え方
目次
大阪の卸売市場・商店街企業が人材を確保する採用の考え方
「若い子が来てくれへんのですわ。求人出しても、全然応募がない」
大阪・中央卸売市場の近くにある水産加工会社の社長が、ため息をつきながらそう話してくれました。朝は早い、仕事は体力勝負、休みは不規則——そんなイメージが先行して、若い世代が敬遠する。いくら求人媒体に広告を出しても、問い合わせすら来ない日が続いていると言います。
大阪の卸売市場や商店街は、この街の経済を支えてきた「根っこ」のような存在です。中央卸売市場、黒門市場、天神橋筋商店街、千林商店街、新世界——こうした場所で商いを続ける企業は、地域経済の重要な担い手です。しかし、多くの企業が深刻な人材不足に直面しています。
私はこれまで500社以上の企業で人事に関わってきましたが、卸売・商店街系の企業の採用課題は、「人が来ない」のではなく「人が来る仕組みになっていない」ことに原因があるケースがほとんどです。求人を出して待つだけでは、この業界の採用は難しい。しかし、考え方と方法を変えれば、人材を確保する道は確実に存在します。
この記事では、大阪の卸売市場・商店街企業が人材を確保するための採用の考え方について、一緒に考えてみたいと思います。
卸売・商店街企業の採用が難しい「本当の理由」
卸売・商店街企業の採用が難しい理由を、多くの経営者は「業界イメージが悪い」「給与が低い」「若者が楽な仕事を選ぶ」と捉えています。しかし、これは表層的な理解です。本当の理由は、もう少し構造的なところにあります。
理由① 「仕事の魅力」が言語化されていない
卸売や商店街の仕事には、他の業界にはない魅力があります。「目利き」の技術、仕入れのダイナミズム、お客さんとの濃い関係性、「自分の判断で商売を動かす」実感——こうした魅力は、実際に働いている人にとっては当たり前すぎて、わざわざ言葉にしていないことが多い。
しかし、求職者は「言語化された情報」で仕事を選びます。求人票に「水産加工業 製造スタッフ」としか書かれていなければ、仕事の魅力は伝わりません。
大阪・木津卸売市場の近くにある青果卸売業者(従業員18名)では、求人を出す際に、「市場の朝の空気」「目利きで仕入れた野菜がレストランのメニューになる瞬間」「常連の料理人との信頼関係」——こうした「仕事のリアルな魅力」を具体的に書いた求人票に変えたところ、応募が前年の3倍に増えたという事例があります。
理由② 「求職者の行動」を理解していない
今の求職者は、スマートフォンで仕事を探します。Indeedやタウンワーク、SNS——こうしたチャネルで検索し、気になった求人の会社名をGoogleで検索し、口コミサイトをチェックする。この一連の「行動」を理解した上で、各タッチポイントで適切な情報を提供できている企業は、卸売・商店街業界では少数です。
会社のWebサイトがない、あってもスマートフォンに対応していない、Googleマップの情報が更新されていない——こうした状態では、求職者は応募に至りません。
理由③ 「採用のコスト」を正しく把握していない
多くの卸売・商店街企業は、「採用にお金をかける」という発想が薄い。求人媒体に掲載費を払うことすら躊躇するケースもあります。しかし、人材が確保できないことによる「機会損失」のコストは、採用に投資するコストよりも遥かに大きいことが多い。
ある天神橋筋商店街の和菓子店(従業員12名)では、製造スタッフが1名不足した状態で半年間営業した結果、製造量の減少による売上減が年間で約400万円に上りました。採用に30万円投資して3ヶ月で人材を確保できていれば、370万円の機会損失を防げた計算になります。
卸売・商店街企業のための採用戦略——5つのアプローチ
では、具体的にどうすれば人材を確保できるのか。5つのアプローチを紹介します。
アプローチ① 「仕事の物語」を伝える採用広報
求人票は「条件」を伝えるものですが、人を動かすのは「物語」です。
「なぜこの仕事があるのか」「どんな人がどんな思いで働いているのか」「この仕事を通じて何を実現できるのか」——こうした「仕事の物語」を伝えることで、単なる条件比較から抜け出すことができます。
大阪・鶴橋のある食肉卸売業者(従業員22名)では、社員のインタビュー動画を3本制作し、Instagramで公開しました。「朝4時に起きる生活は正直きつい。でも、自分が目利きした肉が焼肉店のメニューになって、お客さんが美味しいと言ってくれる。それを聞いた瞬間、全部報われる」——こうしたリアルな声が、意外にも20代の若者の心に刺さった。動画経由の応募が全体の40%を占めるようになりました。
アプローチ② 「働き方の柔軟性」を設計する
卸売市場の仕事は早朝スタートが基本ですが、すべての業務が早朝から必要なわけではありません。仕分け、配送、事務処理、営業——業務を分解し、時間帯ごとに切り出すことで、さまざまな働き方のニーズに対応できます。
中央卸売市場の近くにある水産仲卸業者(従業員15名)では、業務を「早朝仕入れ(4:00〜8:00)」「加工・仕分け(8:00〜12:00)」「配送・営業(10:00〜15:00)」「事務・管理(9:00〜17:00)」の4つの時間帯に分割。それぞれの時間帯で雇用を募集したところ、「朝だけ働きたい」主婦層や「午前中だけ」のシニア層からの応募が増え、人手不足が大幅に緩和されました。
アプローチ③ 「地域コミュニティ」を採用チャネルにする
卸売市場や商店街は、地域に根ざした存在です。この「地域とのつながり」を採用にも活用する発想が重要です。
地域の町内会、商店街の組合、近隣の学校——こうしたコミュニティとの関係を活用し、「こんな仕事があるよ」「知り合いで探している人がいたら紹介して」という口コミを広げる。これは、求人媒体では届かない層にリーチする有効な方法です。
新世界の近くにある串カツチェーンの本社(従業員45名)では、近隣の高校に「職場見学」の機会を提供しています。高校生にとって「商店街の仕事」は未知の世界ですが、実際に見学し、働く人の話を聞くことで、「面白そう」という印象を持つ生徒が少なくない。この取り組みから、毎年1〜2名の高卒採用につながっています。
アプローチ④ 「技能の見える化」でキャリアパスを示す
卸売・商店街の仕事には、長年の経験で培われる高度な技能があります。市場の目利き、仕入れ交渉の技術、お客さんとの関係構築——しかし、これらの技能は「暗黙知」として個人に属していることが多く、「この仕事でどんなスキルが身につくのか」が求職者に見えにくい。
技能を段階的に整理し、「1年目でこれができるようになる」「3年目でこのレベルに達する」「5年目で独り立ちできる」——このキャリアパスを明示することで、求職者に「成長の道筋」を見せることができます。
黒門市場のある鮮魚店(従業員8名)では、「見習い→一人前→番頭→のれん分け」という伝統的な成長モデルを現代版にアレンジし、各段階で求められるスキルと、それに応じた報酬レンジを明示しました。「将来、自分の店を持てる」という明確な目標が示されたことで、独立志向のある若者からの応募が増えたと聞いています。
アプローチ⑤ 「外国人材」の活用を本気で考える
大阪は外国人居住者が多い街です。特に中央区、浪速区、生野区には多くの外国人が暮らしています。卸売・商店街の仕事は、言語の壁さえクリアできれば、外国人材にとっても魅力的な選択肢になり得ます。
ただし、「安い労働力」として外国人材を捉えるのは、倫理的にも持続可能性の面でも問題があります。外国人材を「戦力」として育成し、適切な報酬を払い、キャリアの道筋を示す——この姿勢がなければ、長期的な人材確保にはつながりません。
鶴橋の韓国食材を扱う卸売業者(従業員16名)では、韓国やベトナムからの留学生をアルバイトとして受け入れ、優秀な人材には卒業後の正社員登用の道を用意しています。語学力を活かしたインバウンド対応や、母国との取引ルートの開拓など、外国人材ならではの強みを事業に活かすことで、「お互いにとっての価値」を生み出しています。
採用だけでは解決しない——「定着」の仕組みづくり
人材を採用できても、すぐに辞められては意味がありません。卸売・商店街企業に限らず、「採用」と「定着」はセットで考える必要があります。
定着の鍵① 「最初の1ヶ月」の体験を設計する
入社後1ヶ月の体験が、その後の定着を大きく左右します。「いきなり現場に放り込まれて、何もわからないまま怒鳴られた」——こうした体験をした新入社員は、早期に離職する確率が極めて高い。
最初の1週間で何を覚えるか、最初の1ヶ月で何ができるようになるか——この「ステップ」を明確にし、先輩社員が伴走する仕組みを作る。卸売市場の仕事は「見て覚えろ」の文化が根強いですが、現代の若手は「教えてもらえる環境」を求めています。教え方を変えるだけで、定着率は大きく改善します。
定着の鍵② 「労働環境の改善」に投資する
早朝出勤、立ち仕事、冷蔵環境での作業——卸売市場の労働環境は厳しいのが現実です。すべてを変えることはできませんが、改善できることは着実に改善する。休憩室の整備、防寒具の支給、シフトの柔軟化——こうした「小さな改善」の積み重ねが、「この会社は社員のことを考えてくれている」という信頼を生みます。
大阪・中央卸売市場の近くにある青果仲卸(従業員20名)では、休憩室にコーヒーマシンと暖房設備を導入し、早朝出勤の社員が体を温める場所を整備しました。投資額は年間で30万円程度ですが、「社長が自分たちのことを考えてくれている」という社員の声が増え、離職率が前年比で半減したそうです。
定着の鍵③ 「成長の実感」を設計する
人は「成長している」と感じられる環境に留まります。逆に、「いつまでも同じことの繰り返し」と感じると、モチベーションが低下します。
四半期に一度、上司と部下が「この3ヶ月でできるようになったこと」を振り返り、「次の3ヶ月でチャレンジすること」を話し合う。この対話の仕組みを作るだけで、社員の成長実感は大きく変わります。
採用を「経営の投資」として考える
卸売・商店街企業の多くは、採用を「コスト」として捉えています。できるだけお金をかけずに人を確保したい——その気持ちはわかります。しかし、採用は「投資」です。適切な人材を確保できれば、その人材が生み出す売上・利益は、採用コストを遥かに上回ります。
一人あたりの採用コストと、一人あたりの売上貢献を比較してみてください。多くの場合、採用に50万円かけても、その人材が1年間で生み出す売上は数百万円から数千万円に達するはずです。この「投資対効果」を理解すれば、採用への投資をためらう理由はなくなります。
大阪の卸売市場や商店街は、この街の文化であり、経済の生命線です。そこで働く人材を確保し、育て、活かすことは、単なる企業の課題ではなく、地域の未来をつくる仕事です。
「人が来ない」と嘆く前に、「人が来たくなる仕組み」をつくる。その第一歩として、自社の「仕事の魅力」を言語化することから始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ:卸売・商店街企業の採用改善チェックリスト
- [ ] 自社の「仕事の魅力」を具体的なエピソードとともに言語化する
- [ ] 求人票を「条件の羅列」から「仕事の物語」に書き換える
- [ ] 会社のWeb情報(Googleマップ、SNS含む)を最新化する
- [ ] 業務を時間帯別に分解し、多様な働き方に対応する
- [ ] 地域コミュニティを採用チャネルとして活用する
- [ ] 技能の段階を整理し、キャリアパスを明示する
- [ ] 入社後1ヶ月のオンボーディング計画を作成する
- [ ] 労働環境の改善に小さく投資する
- [ ] 四半期ごとの成長振り返りの場を設ける
- [ ] 採用コストと人材の売上貢献を比較し、「投資対効果」を把握する
採用は「待ち」の姿勢では解決しません。自ら「人が来たくなる仕組み」をつくることが、大阪の卸売市場・商店街企業の未来を切り拓く第一歩になると考えています。
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