
関西の建設業が若手人材を惹きつける組織改革の進め方
目次
関西の建設業が若手人材を惹きつける組織改革の進め方
「現場監督の平均年齢が55歳を超えてしまいました」
神戸のある中堅建設会社の社長から、深刻な表情でそう聞いたとき、この業界の危機感をあらためて感じました。関西の建設業は今、かつてないほどの人材危機に直面しています。大阪のインフラ整備、万博関連の建設需要、老朽化した建物のリノベーション、防災対策——仕事はある。しかし、それを担う「人」がいない。
特に深刻なのは、若手人材の確保です。建設業は長年、「きつい、危険、汚い」というイメージを持たれてきました。加えて、長時間労働や休日の少なさが敬遠され、若者が入職しない。入職しても定着しない。この悪循環が続いています。
しかし、「建設業だから仕方ない」で済ませるわけにはいきません。私はこれまで500社以上の企業で人事に関わってきましたが、建設業であっても「若手が来たい、働き続けたい」と思える組織を作ることは可能です。それには、業界の常識にとらわれない組織改革が必要です。
この記事では、関西の建設業が若手人材を惹きつけるための組織改革の考え方と進め方を、一緒に考えてみたいと思います。
関西の建設業が直面する人材課題の構造
関西の建設業の人材課題を、構造的に整理してみましょう。
入職者の減少
建設業への新規入職者数は、長期的に減少傾向にあります。工業高校の建築科・土木科の卒業生が建設業に就職する割合も低下しています。他の産業、特にIT業界やサービス業に若者が流れる中、建設業は「選ばれにくい産業」になっています。
高齢化の加速
建設業の就業者の年齢構成は、他の産業と比較して高齢層に偏っています。55歳以上の割合が高く、29歳以下の割合が低い。この世代間の不均衡は、今後10年で大量のベテランが引退する「2030年問題」につながります。
2024年問題の影響
建設業における時間外労働の上限規制が適用され、これまでの「長時間労働で乗り切る」方法が通用しなくなりました。限られた労働時間の中で生産性を維持するためには、業務の効率化と人員の確保が同時に必要です。
関西特有の事情
関西では、大阪を中心にインフラ整備や再開発プロジェクトが活発に進んでいます。建設需要は旺盛ですが、人材の供給が追いつかない。加えて、京阪神の都市部と郊外部では求人・求職の状況が大きく異なり、地域ごとの対応が求められます。
若手が建設業を選ばない「5つの理由」
若手人材が建設業を避ける理由を理解することが、組織改革の出発点です。
1. 労働環境のイメージ
「長時間労働」「休日が少ない」「天候に左右される」——建設業の労働環境に対するネガティブなイメージは根強い。実態が改善されている企業でも、業界全体のイメージが足を引っ張っています。
2. キャリアの見通しの不透明さ
「建設業で10年働いたら何になれるのか」が見えにくい。技術を身につけても、その先のキャリアパスが明確でないと、若手は不安を感じます。
3. デジタル化の遅れ
IT業界やデジタルネイティブの若者にとって、「紙の図面」「手書きの日報」「電話連絡が中心」という仕事の進め方は、前時代的に映ります。
4. 給与水準への不満
建設業の若手の給与水準は、同年代の他産業と比較して必ずしも低いわけではありません。しかし、「仕事のきつさに対して見合っていない」と感じられることが多い。
5. 職場文化の問題
「先輩に怒鳴られる」「年功序列で意見が通らない」——建設現場の旧来的な職場文化が、若手を遠ざけている面があります。
組織改革の5つの柱
若手人材を惹きつけるための組織改革を、5つの柱で整理します。
柱① 働き方改革——「週休二日」を当たり前にする
建設業の働き方改革の第一歩は、週休二日の確実な実施です。「現場が回らないから無理」という声は理解できますが、工期の設定、工程管理の精緻化、複数現場の人員配置の最適化——こうした取り組みにより、週休二日を実現している企業は確実に増えています。
大阪のある中堅ゼネコン(従業員約300名)では、3年前から全現場での「4週8休」を目標に掲げ、工程管理ソフトの導入と現場監督の役割再定義により、徐々に実現に近づけています。完全な達成にはまだ至っていませんが、「週休二日を目指している会社」というメッセージだけでも、採用時の訴求力が向上したとのことです。
柱② DX推進——ICTで現場を変える
BIM(Building Information Modeling)、ドローン測量、施工管理アプリ、VR/ARによる安全教育——建設業のDXは急速に進んでいます。こうした最新技術を積極的に導入する姿勢は、デジタルネイティブの若手にとって大きな魅力です。
京都のある建設会社(従業員約80名)では、新入社員にタブレット端末を支給し、施工管理アプリでの日報作成、写真管理、工程確認をデジタル化しました。「紙の日報を手書きで書く」という作業がなくなっただけで、若手の業務効率が向上し、「この会社は新しいことに取り組んでいる」という印象が定着しました。
柱③ キャリアパスの明確化——「技術者としての成長」を見せる
若手が建設業で長く働き続けるためには、「この仕事を続けることで、自分がどう成長できるか」が見える必要があります。
1年目は現場の基礎を学ぶ、3年目には施工管理技士の資格取得を支援する、5年目には小規模現場の主任を任せる、10年目には大型案件の現場監督——こうしたキャリアステップを明確にし、各段階での報酬と処遇を連動させることで、若手のモチベーションを維持できます。
資格取得支援は特に効果的です。施工管理技士、建築士、技術士——これらの資格は、建設業におけるキャリアアップの明確な指標です。受験費用の補助、勉強時間の確保、合格時の報奨金——こうした支援制度は、若手の「この会社で成長できる」という実感を支えます。
柱④ 職場文化の刷新——「怒鳴らない現場」を作る
建設現場の旧来的なコミュニケーション文化は、若手が最も敬遠する要因の一つです。安全上の理由から大声で指示を出すことは必要ですが、「怒鳴って教える」「失敗を人前で叱責する」といった文化は、変えていく必要があります。
これは「若者に甘くする」ということではありません。「教え方を変える」ということです。なぜそうするのかを説明する、良い点をまず認めてから改善点を伝える、質問しやすい雰囲気を作る——こうしたコミュニケーションの変革が、若手の定着を支えます。
神戸のある建設会社(従業員約120名)では、現場監督向けの「コミュニケーション研修」を年2回実施しています。ベテランの監督が若手への指導方法を学び直す場として機能しており、導入後に若手の離職率が改善しました。
柱⑤ 採用メッセージの刷新——「建設業の面白さ」を伝える
建設業には、他の産業にはない独自の魅力があります。「自分が関わった建物が街に残る」「地図に載る仕事ができる」「ものづくりの最大スケール」——こうした魅力を、若者に刺さる言葉で伝えることが重要です。
現場の映像、社員インタビュー、プロジェクトのビフォーアフター——ビジュアルコンテンツを活用した採用メッセージは、建設業の「スケール感」を伝えるのに非常に効果的です。
よくある失敗パターン
建設業の組織改革でよく見られる失敗パターンです。
「改革」を掲げるだけで現場が変わらない
経営層が「働き方改革」を宣言しても、現場の管理職が「そうは言っても現場は回らない」と従来のやり方を続けるケース。トップダウンの方針と現場の実態を擦り合わせる「中間層の巻き込み」が不可欠です。
「制度だけ」整えて文化を変えない
週休二日の制度を作っても、「休むと仕事が回らない」雰囲気が残っていれば誰も休めません。制度と文化の両方を変える必要があります。
若手の意見を聞かない
「建設業はこうやるもんだ」というベテランの経験則を絶対視し、若手の意見やアイデアを受け入れないケース。若手が感じる不満や改善のアイデアは、組織改革の貴重なヒントです。
関西の建設業ならではの強みを活かす
関西の建設業には、組織改革を進めるうえでの固有の強みがあります。
歴史的建造物の修復という独自の仕事
京都・奈良を中心に、寺社仏閣や伝統的建造物の修復・保全を担う建設会社があります。「文化財に関わる仕事」は、歴史や文化に関心のある若者にとって非常に魅力的です。こうした案件は京都・奈良に集中しており、関西の建設業ならではの訴求ポイントになります。
京都のある建設会社(従業員約50名)では、文化財修復の案件を積極的にSNSで発信したところ、建築学科の大学生から「この仕事がしたい」という問い合わせが増えました。工事の「ビフォー・アフター」を映像で見せることで、建設の仕事の社会的な意義を伝えています。
大阪の再開発プロジェクトという規模感
大阪では大規模な都市再開発が進行しています。こうしたプロジェクトに携わる機会は、若手にとって大きな成長の場です。「都市の景色を自分の手で変える」というスケール感は、建設業ならではの醍醐味です。
地域密着型の信頼関係
関西の中小建設会社は、地域に根ざした事業を展開しています。地元の住民、自治体、他の事業者との長年にわたる信頼関係は、大手ゼネコンにはない強みです。この「地域との結びつき」を、組織のアイデンティティとして若手に伝えることで、「この会社で働く意味」が明確になります。
経営数字で語る組織改革の必要性
組織改革を経営者に提案するとき、「若手のために」だけでは動かないことがあります。経営数字で語ることが重要です。
ベテラン社員が10年以内に大量退職した場合の技術力低下と受注能力への影響。若手の早期離職による採用コストの累積。2024年問題による残業規制で、現行の人員体制では対応できなくなるプロジェクトの数。
これらの数字を試算し、「組織改革に投資しなかった場合のリスク」を可視化することで、経営者の意思決定を促すことができます。
たとえば、現場監督一人が引退した場合の影響を試算してみましょう。その監督が担当していた年間の受注額、後任の育成にかかる期間とコスト、育成期間中の受注機会の逸失——これらを合算すると、一人のベテランの退職が数千万円規模の経営インパクトを持つことが見えてきます。この「見える化」が、組織改革への投資を正当化する根拠になります。
建設業の未来を関西から
関西には、大阪の都市インフラ、京都の歴史的建造物の保全、神戸の港湾施設、各地の防災インフラ——建設業の力が求められる場面が無数にあります。
その仕事を担う若手人材を惹きつけるためには、「建設業だから仕方ない」を超える組織改革が必要です。働き方を変え、テクノロジーを導入し、キャリアパスを示し、職場文化を刷新する。一朝一夕にはいきませんが、一歩ずつ前に進むことで、「建設業で働きたい」と思う若者を増やすことができる。
関西の建設業の未来は、今の組織改革にかかっています。人事の力で、その改革を推進していきましょう。
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