
関西でUIターン人材を採用するための人事戦略——関西で人事に取り組む方へ
目次
関西でUIターン人材を採用するための人事戦略——関西で人事に取り組む方へ
「関西に帰りたい」と思っている人は、実はたくさんいます。
首都圏で働くビジネスパーソンの中に、「いつか関西に戻りたい」「地元の大阪で働きたい」と考えている人がどれだけいるか、あなたは想像したことがありますか。UIターン採用は、関西の企業にとって「人材不足の解消手段」ではなく、「事業成長の戦略的な一手」になり得る。今回は、その考え方と実践のポイントを整理します。
UIターン採用を「戦略」として位置づける
UIターン採用と聞くと、「地方企業が都会の人材を呼び込む施策」というイメージを持つ方が多いかもしれません。でも、関西の文脈でUIターン採用を考えるなら、もう少し広い視野が必要です。
関西は「地方」ではありません。大阪は日本第二の都市圏であり、京都・神戸を含めれば、経済規模も文化的厚みも十分にあります。にもかかわらず、首都圏への人材流出は続いている。これは「魅力がない」からではなく、「魅力が伝わっていない」からです。
UIターン採用を戦略として位置づけるとは、「関西で働くことの価値」を明確に言語化し、それを求職者に届ける仕組みを作ること。ここに人事の力が問われます。
なぜ今、UIターン採用なのか
UIターン採用が関西の企業にとって重要な理由は、3つあります。
1. 首都圏人材の「関西回帰」ニーズの高まり
コロナ禍以降、リモートワークの普及や生活の質への関心が高まり、「必ずしも東京にいなくてもいい」と考える人が増えました。特に30代前後のビジネスパーソンの中には、「関西出身で、いつか戻りたいと思っている」層が一定数存在します。
この層にリーチすることは、「人材不足を補う」以上の意味があります。首都圏で経験を積んだ人材が関西の企業に加わることで、新しい視点や知見が組織に入ってくる。それは事業の成長エンジンになり得るのです。
2. 関西の産業基盤の強さ
関西には、製造業・ハイテク産業・医療・観光・伝統産業など、多様な産業基盤があります。これは「関西で働くキャリアの多様性」を意味します。UIターン希望者にとって、「戻ったら選択肢がない」という不安が最大のハードルですが、関西はその心配が比較的少ない地域です。
3. 生活コストと生活の質のバランス
大阪の中心部でも、東京と比べれば住居費は抑えられます。通勤時間の短縮、食文化の豊かさ、地域コミュニティとの接点——こうした「生活者としてのメリット」は、キャリアだけでは語れない大きな魅力です。
UIターン人材が「不安に思っていること」
UIターン採用を成功させるには、求職者側の心理を理解することが欠かせません。「関西に帰りたい」と思っていても、実際に転職を決断するまでにはいくつものハードルがあります。
キャリアへの不安
「関西の企業に転職したら、キャリアが停滞するのではないか」——この不安は根強いものです。特に首都圏の大企業やスタートアップで働いてきた人ほど、「規模が小さくなること」への抵抗感があります。
これに対して人事ができることは、「この会社で何ができるか」を具体的に示すこと。ポジションの裁量、事業へのインパクト、成長機会——これらを具体的なエピソードやデータで伝えることが重要です。
年収への不安
関西の企業の給与水準は、首都圏と比較すると低い場合があります。ただし、生活コストの差を考慮すると「可処分所得」では大きな差がないケースも多い。この「生活トータルでの比較」を丁寧に伝えることが、年収ダウンへの不安を和らげます。
ただし注意が必要なのは、「安いけど生活費も安いから大丈夫」という論法だけでは不十分だということ。「この会社で成果を出せば、どういう報酬カーブを描けるか」という中長期のキャリアパスを示すことが信頼につながります。
家族の理解
UIターンは個人だけの問題ではありません。配偶者の仕事、子どもの学校、親の介護——家族全体の生活設計に関わる意思決定です。人事としてできることは、「転職者本人」だけでなく「家族」への情報提供を充実させること。住環境、教育環境、医療環境などの生活情報を整理して伝えることで、家族の不安を軽減できます。
実践に向けた5つのアプローチ
1. 経営者と「UIターン採用の意義」を共有する
UIターン採用は、通常の中途採用よりも時間とコストがかかります。経営者がその意義を理解していなければ、「なぜわざわざ遠くから採るのか」という疑問が出る。
人事としてやるべきは、「UIターン人材がもたらす事業価値」を経営者に伝えること。首都圏での経験値、異なる業界の知見、新しいネットワーク——これらが自社の事業にどうプラスになるかを、具体的に説明できるようにしておく。
2. 「関西で働く魅力」を具体的に発信する
求人票に「関西勤務」と書くだけでは、UIターン希望者の心は動きません。自社のWebサイトやSNS、採用資料で「関西で働くことのリアル」を発信する。社員のUIターン体験談、オフィス周辺の生活環境、通勤事情——こうしたコンテンツが、「ここで働く自分」をイメージさせる力を持ちます。
3. オンライン面談を活用したカジュアルな接点づくり
UIターン希望者は、すぐに転職を決断するわけではありません。「まずは話を聞いてみたい」という段階の人と、気軽にオンラインで話せる場を設ける。カジュアル面談やオンライン会社説明会は、関西への心理的距離を縮める有効な手段です。
4. 選考プロセスの柔軟性を確保する
首都圏在住の求職者にとって、面接のたびに関西まで足を運ぶのは大きな負担です。オンライン面接を基本にしつつ、最終面接は現地で——というような柔軟な選考プロセスを設計する。その際、「来社時に周辺エリアを案内する」といった工夫も、入社後のイメージ形成に役立ちます。
5. 入社後のオンボーディングを手厚く
UIターン入社者は、仕事だけでなく生活環境も大きく変わります。入社後の最初の数か月が、定着を左右する重要な期間です。業務面のオンボーディングに加えて、生活面のサポート——住居探し、地域のコミュニティ紹介、家族のネットワーク構築支援——まで視野に入れることで、「ここに来てよかった」という実感を早期に作ることができます。
UIターン採用でよくある失敗パターン
UIターン採用に取り組む中で、陥りやすいパターンがあります。
「来てくれる人を待つ」だけになる
求人票を出してUIターン希望者の応募を待つだけでは、母集団はなかなか広がりません。SNSやイベント、OBネットワークなどを活用して「関西に戻りたいけれど情報がない」という潜在層にリーチする積極的なアプローチが必要です。
選考で「なぜ関西に戻るのか」を深掘りしない
UIターン希望者が「家族の都合」や「なんとなく地元に帰りたい」という動機だけで応募してくるケースもあります。関西に戻る理由と、自社で働きたい理由が噛み合っているかを丁寧に確認しないと、入社後に「思っていたのと違う」というミスマッチが起きやすい。
入社後のフォローを人事だけに任せる
UIターン入社者は、仕事の環境だけでなく生活環境も変わります。入社後3〜6ヶ月は、仕事の不安と生活の不安が重なる時期。この時期に現場の上司や同僚が意識的に関わることができるよう、人事が「入社後フォローの仕組み」を設計しておくことが定着率を左右します。
数字で語れる人事になる
UIターン採用においても、「経営数字との接続」は欠かせません。
採用コスト、入社後の生産性の立ち上がり、定着率——これらの数字を追いかけ、「UIターン採用がどれだけ事業に貢献しているか」を可視化する。そうすることで、経営者の理解も深まり、次年度以降の採用計画にも説得力が出ます。
通常の中途採用と比較して、UIターン採用は選考期間が長くなる傾向があります。首都圏在住の候補者とオンラインで複数回面談し、現地内見や家族との相談期間を経て入社に至るまで、3〜6ヶ月かかることも珍しくありません。この時間投資をどう評価するかも含めて、採用計画に組み込んでおくことが現実的です。
「いい人が来てくれた」という感覚だけでなく、「この投資はこれだけのリターンを生んでいる」と語れること。それが、関西の人事のプロとしての信頼を築く基盤になります。
UIターン採用は「一度きりの施策」ではない
UIターン採用を一度やって終わり、ではもったいない。大切なのは、「関西で働く魅力」を継続的に発信し、UIターン希望者との接点を持ち続けること。すぐに転職しない人も、2年後、3年後に「あの会社に応募しよう」と思い出してくれるかもしれません。
この「長期的な関係構築」の視点が、UIターン採用を「単発の施策」から「事業戦略の一部」に昇華させます。
また、UIターン採用を通じて入社した社員が「関西に来てよかった」と感じていることを発信してもらう——これが次のUIターン候補者を引き寄せる好循環を生みます。社員のリアルな声は、会社が作った採用資料よりも圧倒的に信頼されます。社員インタビューやSNSでの発信を、採用コンテンツとして活用する仕掛けを人事が設計できるかどうかが、中長期の採用力を左右します。
採用は「会社が求職者を選ぶ」だけでなく、「求職者が会社を選ぶ」プロセスです。UIターン採用において、この「相互選択」の感覚を大切にすることが、入社後のエンゲージメントにもつながります。
UIターン採用の成功事例——ある兵庫の製造業の場合
兵庫県にある機械部品メーカー(従業員80名)では、数年前からUIターン採用に取り組んでいます。きっかけは、地元での採用だけでは技術職の採用が追いつかなくなってきたことでした。
人事担当者が最初にやったことは、「なぜこの会社を選んだのか」を既存社員に丁寧に聞くことでした。すると「実家が近くて親の顔を見られる」「神戸の暮らしが好きで戻りたかった」「中小企業だから入社1年目から設計に関われた」——というリアルな声が集まった。これらをそのまま採用メッセージに落とし込み、会社説明会の資料を全面的に作り直した。
また、東京・大阪で年2回の「関西で働く・暮らすフェア」への参加を始め、UIターン希望者と気軽に話せる場を設けました。面接ではなく「相談の場」として設計することで、転職活動前の潜在層との接触が増えた。
3年後には技術職の年間採用数が倍増し、うち4割がUIターン入社者になりました。定着率も高く、「来てすぐ辞める」という問題がほぼなくなったといいます。「焦らず、関係を育てることが大切だとわかった」と人事担当者は振り返ります。
関西だからこそできる採用がある
関西には、首都圏にはない魅力があります。「商い」の文化に根ざした経営のスピード感、多様な産業基盤、生活の質の高さ——これらを「採用の武器」として磨いていくことが、関西の中小企業の人事に求められています。
「東京に負けない」のではなく、「関西だからこそ」の価値を、自信を持って伝えていく。その姿勢が、UIターン人材の心を動かします。関西の中小企業の人事担当者が、UIターン採用という手段を通じて「地域の産業と人材の橋渡し役」になっていく——そのことに、誇りを持っていい。一人ひとりの採用担当者の丁寧な仕事が、関西の未来をつくっていると思います。
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