
関西の中小企業における採用の課題と打ち手——関西で人事に取り組む方へ
目次
関西の中小企業における採用の課題と打ち手——関西で人事に取り組む方へ
「うちは大阪やから、まあなんとかなるやろ」——そんな空気、ありませんか。
関西の企業で人事に取り組む方が直面する課題は、単純な人材不足ではありません。製造業・商社・サービス業・インバウンド産業が混在し、中小企業が地域経済の中核を担う関西には、関西ならではの採用の難しさがあります。大阪・京都・神戸という複数の都市圏が隣接する地理的特性、「商い」の文化に根ざした独自の経営スタイル——こうした文脈の中で、採用課題をどう捉えるか。それが今、問われています。
関西ならではの文脈で考える
関西で人事に携わる方には、首都圏の企業とは異なる「文脈」があります。
まず、関西は大阪を中心に京都・神戸・奈良・滋賀・和歌山と、それぞれ異なる産業特性を持つ都市が近接しています。求職者にとっては「関西圏内で転職する」という選択肢が豊富にある。つまり、同じ関西の企業同士で人材を奪い合う構図が生まれやすいのです。
一方で、関西の中小企業には「経営者との距離が近い」という強みがあります。人事担当者が経営者と直接対話できる環境は、首都圏の大企業ではなかなか得られない。この距離感を活かして、採用を「経営課題」として位置づけられるかどうかが、成果を分ける大きなポイントになります。
「首都圏でうまくいっている方法をそのまま関西に持ち込む」のではなく、「この地域ではどう考えるか」というオーナーシップを持つこと。それが、関西で人事のプロとして活躍するための第一歩です。
なぜ採用課題が今重要なのか
関西の中小企業にとって、採用課題は「いずれ取り組む」ではなく「今すぐ向き合うべき経営課題」になっています。
理由はシンプルです。関西圏の有効求人倍率は全国平均を上回る水準で推移しており、特に製造業やサービス業の人材獲得競争は年々激化しています。京阪神エリアでは大企業の採用が活発化し、中小企業は「知名度」で不利な戦いを強いられている。
経営者から「何とかしてほしい」と言われても、明確な打ち手が見えない——そんな状況に置かれている人事担当者は少なくありません。でも、課題の本質を見誤ると、いくら時間とお金を使っても解決にはつながりません。
採用課題において最初に問うべきは、「何のための採用か」です。事業目標から逆算して、どんな人材が何人必要か、どんなスキルセットが求められるか——この大きな問いを持ち続けることが、打ち手の精度を上げます。
関西の採用市場を読む——3つの構造的特徴
関西の採用市場には、他のエリアとは異なる構造的な特徴があります。これを理解しないまま施策を打っても、的外れになりかねません。
1. 京阪神の人材流動性の高さ
大阪・京都・神戸は電車で30分から1時間圏内。求職者は「大阪の企業」「京都の企業」「神戸の企業」を並べて比較検討します。つまり、自社の魅力を「同業他社」だけでなく「近隣都市の異業種企業」とも比較される。この前提で採用メッセージを設計する必要があります。
2. 中小企業が地域経済の主役
関西は中小企業比率が高く、とりわけ大阪は「商人の街」として独自の企業文化を持っています。大企業のブランド力に頼れない分、「この会社で働く意味」を具体的に言語化する力が求められます。
3. インバウンド・観光産業との人材争奪
京都・大阪を中心にインバウンド需要が急回復し、観光・宿泊・飲食産業の人材ニーズが高まっています。サービス業だけでなく、製造業の現場人材にも影響が波及しており、業界を超えた人材争奪が起きているのが関西の現状です。
実践に向けた5つの視点
では、関西の中小企業が採用課題に取り組むために、どんな視点を持てばよいのか。ここでは5つの切り口を紹介します。
1. 経営数字から逆算する習慣をつける
人事施策は「やって当然」ではなく「この施策で事業がこう変わる」という仮説を持って設計する。人件費が売上・利益に対してどのくらいの比率か、採用コストの回収期間はどれくらいか——こうした数字感覚を持つことが、経営者との対話を変えます。
関西の経営者は「コスト意識が強い」とよく言われます。これは悪いことではなく、「投資対効果を重視する」ということ。数字で語れる人事担当者は、経営者の信頼を得やすい。これは関西で人事をやるうえでの大きなアドバンテージです。
2. 「関西で働く理由」を言語化する
求職者が関西の企業を選ぶ理由は何か。通勤の利便性、生活コストの相対的な低さ、地域コミュニティとの接点、食文化やカルチャーへの愛着——こうした「生活者としての魅力」を採用メッセージに組み込むことで、首都圏の企業との差別化が可能になります。
ただし、これは「福利厚生の充実」とは違います。「この会社で、この地域で働くことで、あなたのキャリアがどう発展するか」というストーリーを語ること。それが関西の中小企業の採用ブランディングの核になります。
3. 地域産業の特性を読む
関西には固有の産業構造があります。大阪の製造業・商社、京都のハイテク・伝統産業、神戸の医療・貿易、滋賀の製造業集積、奈良の中小製造業、和歌山の農林水産業——それぞれの県が異なる産業的強みを持っています。
自社がどの産業クラスターに属し、その中でどんなポジションを占めるのか。この理解が、「どこから」「どんな人材を」「どうやって」採用するかの戦略を決める基盤になります。
4. 採用チャネルの使い分けを見直す
関西の中小企業の多くが、大手求人媒体に頼りきりになっています。もちろん媒体活用は重要ですが、それだけでは差別化が難しい。
リファラル採用(社員紹介)、地域の大学・専門学校との連携、ハローワークの活用、SNSでの発信——複数のチャネルを組み合わせることで、「求人媒体では出会えない層」にリーチできます。特に関西は地縁・人脈のネットワークが強い地域。これを活用しない手はありません。
5. 外部知見との接続を意識する
関西の人事担当者の多くが、「情報の孤立」を感じています。日々の業務に追われ、他社の事例や最新の知見にアクセスする余裕がない。でも、同じ課題を持つ仲間とつながることで、打ち手の選択肢は格段に広がります。
人事のコミュニティに参加する、勉強会に足を運ぶ、書籍やメディアから学ぶ——こうした「学びの投資」は、中長期で大きな差を生みます。
よくある失敗パターン——関西の採用で繰り返されること
採用課題に向き合う中で、関西の中小企業でよく見られる「うまくいかないパターン」があります。
パターン①:媒体依存からなかなか抜け出せない
求人媒体に出稿してもうまくいかない。そこで別の媒体に切り替えてみるが、やはり応募が増えない。その繰り返しを続けている——。媒体の選定よりも先に、「自社の魅力を言語化できているか」「求職者に刺さるメッセージになっているか」を問うことが必要です。媒体はあくまで届けるチャネルであって、届けるコンテンツの質が伴っていないと、変えても変えても結果は変わりません。
パターン②:「採用すれば解決」と思っている
人手が足りないから採用を急ぐ。採用できたが、現場が忙しすぎて育成できない。半年で離職する。また採用する——このサイクルに陥っている企業は珍しくありません。採用コストは求人媒体の費用だけではなく、選考担当者の工数、入社後のオンボーディングコスト、早期離職した際の再採用コストまで含めると、一人あたり80〜150万円規模になることも珍しくありません。「採用できた」で終わらず、「なぜ辞めるのか」を同時に問うことが、採用課題の本質的な解決につながります。
パターン③:採用と経営が切り離されている
「採用は人事の仕事」という認識が経営側にある場合、採用計画が事業計画とズレていることがあります。来年度に事業を拡張する計画があるのに、採用準備が後手に回る。事業の方向性と採用の方向性を同期させるためには、人事が経営の議論に最初から参加できる仕組みが必要です。
採用コストを「見える化」することから始める
関西の経営者がコスト意識の高い文化を持つことはすでに触れましたが、これを活かすために人事が最初にやるべきことがあります。それは「採用コストの見える化」です。
自社の採用に関わる費用を整理してみましょう。
- 求人媒体の掲載費
- 人材紹介会社への成功報酬
- 採用担当者の時間コスト(面接・書類選考・連絡対応)
- 入社後のオンボーディングコスト(研修費・先輩社員の時間)
- 早期離職が発生した場合の再採用コスト
これらを合計すると、中途採用一人あたりの実質コストは思った以上になることが多い。この数字を経営者と共有することで、「採用に投資する」ことへの理解が深まりますし、「早期離職を防ぐことの経済的価値」を語る土台にもなります。
数字で語れる人事は、経営者の目に違って映ります。関西の経営者にとって、「コストを見ながら動く人事担当者」は頼もしいパートナーです。
「手段ありき」ではなく「問いから始める」
採用課題に取り組むとき、よくある落とし穴が「手段ありき」の思考です。
「ダイレクトリクルーティングを導入しよう」「採用サイトをリニューアルしよう」——こうした施策は大切ですが、「なぜそれをやるのか」が曖昧なまま走り出すと、コストだけがかさんで成果につながらない。
大事なのは「問いから始める」こと。
- 今の事業計画を達成するために、どんな人材が必要か。
- その人材は、どこにいて、何を求めているか。
- 自社は、その人材にとってどんな魅力を提供できるか。
この3つの問いに対する答えが明確になってはじめて、「では何をするか」という手段の選択に意味が生まれます。
関西の人事としての意地
関西で人事をやることは、決してハンデではありません。経営者との距離が近い、地域の事業への理解が深い、現場との信頼関係が築きやすい——これらは首都圏の大企業では得にくい経験です。
「大企業のマネをする」のではなく、「この地域の事業を人事から変えていく」という覚悟を持つこと。それが、関西の人事のプロとしてのあり方だと考えています。
もちろん、一人で抱え込む必要はありません。同じ課題を持つ仲間と学び合い、経営者と対話し、一歩ずつ前に進む。その積み重ねが、会社を、地域を変えていきます。関西の人事担当者が互いの経験を持ち寄り、地域全体の採用力を高めていくことが、これからの時代に求められているのではないでしょうか。
「事業を伸ばす人事」を関西から
関西という地域で人事に取り組むことには、大きな可能性があります。地域に根ざした事業への深い理解、経営者との近い距離感、求職者との顔の見える関係——これらは人事のプロとしての力を磨くうえで、かけがえのない環境です。
その経験を、経営視点の思考と組み合わせることで、「この地域の事業を人事から変えた」という実績を作ることができる。
採用課題は孤独に見えることがあります。経営者からのプレッシャー、現場からの不満、思うように集まらない応募——そういった状況でも、「何のための採用か」という問いに立ち返ることで、次の一手が見えてくることがあります。関西の人事担当者が一人で抱え込まず、仲間と学び合い、事業に届く採用を積み重ねていける環境が、もっと広がってほしいと思っています。
関西の人事には、その力がある。私はそう信じています。
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