大阪の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法
組織開発

大阪の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法

#組織開発#経営参画#キャリア#離職防止

大阪の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法

「うちの組織図ですか? 一応あるんですけど、実態とは違いますね。3年前に作ったきりで、更新してないんです」

大阪・堺市にある金属加工メーカーの総務部長が、そう話してくれました。従業員75名。創業から40年以上の歴史がある企業で、組織図は「会社案内に載せるために作ったもの」という位置づけでした。実際の指揮系統や業務の流れは、組織図とは異なる「暗黙のルール」で動いている。

この状況は、大阪の中小企業では決して珍しくありません。組織図は「つくること」が目的化し、実態とかけ離れた「飾り」になっている。あるいは、そもそも組織図が存在しない企業も少なくありません。

しかし、組織図は単なる「箱と線の図」ではありません。組織図は「事業をどう動かすか」という経営の意思を表現したものです。誰が何に責任を持ち、どのような意思決定の流れで事業を運営するか——それを視覚的に示したのが組織図です。

私は大阪の中小企業で組織に関わる中で、組織図を「戦略的に設計する」ことが、事業の推進力を高める重要な手段だと感じています。その具体的な方法をお伝えします。


なぜ組織図を「戦略的に」設計する必要があるのか

理由① 組織図は「戦略の実行体制」を示す

事業戦略は、組織を通じて実行されます。「新規事業を立ち上げる」「海外展開を進める」「DXを推進する」——どんな戦略であっても、それを実行する「体制」が必要です。組織図は、その実行体制を設計するツールです。

戦略と組織図が連動していなければ、戦略は絵に描いた餅になります。「DXを推進する」と言いながら、デジタル推進の部署も責任者もいない組織図では、DXは進みません。

理由② 責任と権限を明確にする

中小企業でよくある問題が「誰が決めるのかわからない」ことです。責任と権限が曖昧なまま業務が進み、重要な意思決定が先送りされる。あるいは、複数の人が同じことを決めようとして混乱が生じる。

組織図は、「誰が何に責任を持ち、どこまでの権限を持っているか」を明確にする手段です。組織図を見れば、「この案件は誰に相談すればよいか」「この決定は誰が下すのか」がわかるようにすることが理想です。

理由③ 社員のキャリアパスを示す

組織図は、社員にとっての「キャリアの地図」でもあります。「自分は今ここにいて、次はここを目指せる」——組織図を見ることで、社員が自分のキャリアパスをイメージできるようになります。

逆に、組織図がなければ、「自分がどこに向かっているのか」が見えません。キャリアの見通しが立たないことは、社員のモチベーション低下や離職の原因になり得ます。


組織図設計の基本原則

原則① 事業戦略から逆算する

組織図は「今の人員をどう配置するか」ではなく、「事業戦略を実行するために、どんな体制が必要か」から設計します。

まず、事業戦略を確認します。「今後3年間で何を達成するのか」「そのために、どんな機能(営業、製造、開発、管理など)が必要か」——この問いに答えることが、組織図設計の出発点です。

大阪のある食品卸(従業員100名)では、「3年後に売上を1.5倍にする」という事業目標に対して、現状の組織図を見直しました。売上拡大のためには、既存顧客の深耕と新規顧客の開拓を同時に進める必要がある。しかし、既存の組織図では営業部が一つしかなく、既存顧客対応と新規開拓が同じチームで行われていました。

結果として、営業部を「既存営業部」と「新規開発部」に分け、それぞれに責任者を置く組織図に変更しました。「組織図を変えたことで、新規開拓の責任者が明確になり、新規開拓の活動量が目に見えて増えた」と社長は話します。

原則② 「管理の幅(スパン・オブ・コントロール)」を適正にする

一人の管理職が直接管理する部下の人数を「管理の幅」と言います。この管理の幅が広すぎると、管理が行き届かなくなります。逆に、狭すぎると、階層が増えてコミュニケーションが遅くなります。

一般的な目安として、管理の幅は5〜8名程度が適正とされています。ただし、業務の性質によって異なります。定型的な業務であれば管理の幅は広くてもよく、非定型的な業務であれば狭くする必要があります。

神戸のあるIT企業(従業員60名)では、社長が15名の部下を直接管理していました。「全員と話したいんだけど、物理的に時間が足りない。結局、声の大きい人の話だけ聞くことになってしまう」と社長は悩んでいました。

組織図を見直し、3名の課長を置いて、社長の直接管理は5名に絞りました。「管理の層が一つ増えたことで、社員一人ひとりに目が行き届くようになった。社長としては、経営に集中できるようになった」と社長は振り返ります。

原則③ 「兼務」を最小限にする

中小企業では、一人が複数の役割を兼務することが当たり前です。「営業部長が人事も兼務」「製造部長が品質管理も担当」——人数が限られている以上、兼務は避けられない面があります。

しかし、兼務が多すぎると、責任が曖昧になります。「営業と人事の両方を担当しているが、忙しい時は営業を優先してしまい、人事は後回しになる」——こうした状況は、兼務の弊害です。

組織図を設計する際は、「どうしても必要な兼務」と「解消できる兼務」を区別し、可能な限り兼務を減らすことが望ましいです。

原則④ 「横の連携」を意識する

組織図は通常、「縦の階層」を示します。しかし、実際の業務では「横の連携」が重要です。営業部と製造部の連携、開発部とマーケティング部の連携——部門間の連携がうまくいかないと、事業全体のパフォーマンスが下がります。

組織図を設計する際は、「縦の指揮命令系統」だけでなく、「横の連携の仕組み」もあわせて設計します。具体的には、クロスファンクショナルなプロジェクトチーム、部門間の定例ミーティング、情報共有のルールなどを組み合わせます。


中小企業における組織図の設計パターン

大阪の中小企業でよく見られる組織図のパターンと、それぞれの特徴を紹介します。

パターン① 機能別組織

最も基本的な組織図です。営業、製造、管理といった「機能」ごとに部門を分ける形です。

適している企業:

  • 事業が単一の企業
  • 規模が小さい企業(50名以下)
  • 業務の専門性を高めたい企業

注意点:

  • 部門間の壁ができやすい
  • 顧客視点が失われやすい(各部門が自部門の論理で動く)

パターン② 事業部制組織

複数の事業を展開している企業に適した組織図です。事業ごとに部門を分け、各事業部に営業・製造・管理の機能を持たせる形です。

適している企業:

  • 複数の事業を展開している企業
  • 事業ごとに市場や顧客が異なる企業
  • 各事業の自律性を高めたい企業

注意点:

  • 各事業部に管理機能を持たせるため、人員が必要
  • 事業部間のシナジーが生まれにくい

パターン③ マトリクス組織

機能別組織と事業部制組織を組み合わせた形です。社員は「機能の上司」と「事業の上司」の2名の上司を持ちます。

中小企業ではフル形態のマトリクス組織は現実的ではありませんが、プロジェクト単位で部門横断のチームを組むことで、マトリクス的な連携を実現することは可能です。

パターン④ フラット組織

階層を極力なくし、社長と社員の距離を近くする形です。意思決定が速く、コミュニケーションが活発になりやすい。

適している企業:

  • 30名以下の小規模企業
  • 変化のスピードが速い業界
  • 社員の自律性が高い企業

注意点:

  • 規模が大きくなると管理が行き届かなくなる
  • 社長に意思決定が集中しやすい

組織図設計の実践ステップ

ステップ① 事業戦略と現状の組織図のギャップを確認する

現在の組織図と事業戦略を並べて、「戦略を実行するために不足している機能はないか」「責任が曖昧になっている領域はないか」を確認します。

確認のポイント:

  • 戦略上重要な機能に、専任の責任者がいるか
  • 管理の幅が適正か(一人の管理職の部下が多すぎないか)
  • 兼務が多すぎないか
  • 部門間の連携の仕組みがあるか

ステップ② 「あるべき姿」の組織図を描く

事業戦略から逆算して、「3年後にあるべき組織図」を描きます。現在の人員にとらわれず、「こうあるべき」という理想の組織図をまず描くことが重要です。

その上で、「理想と現実のギャップ」を認識し、ギャップを埋めるためのロードマップをつくります。

ステップ③ 段階的に移行する

組織図の変更は、一度に大きく変えるとリスクが高い。段階的に移行することが望ましいです。「まず、この機能の専任者を置く」「次に、この部門を分割する」というように、ステップを踏んで進めます。

大阪のある商社(従業員110名)では、組織図の変更を2年かけて段階的に行いました。1年目は「新規事業推進室」の新設と専任者の配置。2年目は営業部の分割と管理部門の再編。「一気に変えると社員が混乱するので、変更の意図を丁寧に説明しながら、半年ごとに少しずつ変えていった」と人事部長は話します。

ステップ④ 組織図を「生きたもの」にする

組織図は一度つくって終わりではありません。事業環境の変化、人員の変動、戦略の修正に合わせて、定期的に見直す必要があります。

最低でも年に1回は組織図を見直し、「今の組織図は、事業戦略の実行体制として適切か」を検討します。


組織図変更時のコミュニケーション

組織図の変更は、社員にとって大きな影響があります。「自分の上司が変わる」「所属部門が変わる」「新しい役割を担う」——こうした変化に対して、社員が不安を感じるのは当然です。

ポイント① 変更の「理由」を説明する

「なぜ組織図を変えるのか」を明確に説明します。「事業戦略上、こういう体制が必要だから」「この課題を解決するために、この変更が必要だから」——理由がわかれば、社員は変化を受け入れやすくなります。

ポイント② 「何が変わり、何が変わらないか」を伝える

変更に伴う「変わること」だけでなく、「変わらないこと」も明確に伝えます。「所属部門は変わるが、業務内容は変わらない」「上司は変わるが、処遇は変わらない」——変わらないことを伝えることで、社員の不安が軽減されます。

ポイント③ 個別のフォローを行う

組織図の変更で影響を受ける社員には、個別に面談を行い、質問や不安に対応します。特に、管理職の役割が変わる場合は、丁寧なコミュニケーションが必要です。


まとめ:組織図は経営の「設計図」

組織図は、会社案内に載せるための「飾り」ではありません。事業をどう動かすか、誰が何に責任を持つか——経営の意思を表現した「設計図」です。

大阪の中小企業は、経営者と社員の距離が近く、組織の変更に機動的に対応できるという強みがあります。その強みを活かして、事業戦略に連動した組織図を設計し、定期的に見直していく。「今の組織図は、事業を前に進めるために最適な形になっているか」——この問いを常に持ち続けることが、組織の推進力を高める鍵です。

組織図は「つくるもの」ではなく、「使うもの」です。事業を前に進めるための「道具」として、組織図を戦略的に活用していただきたいと思います。

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