関西の企業が「退職面談」から組織改善のヒントを得る方法
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関西の企業が「退職面談」から組織改善のヒントを得る方法

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関西の企業が「退職面談」から組織改善のヒントを得る方法

「先月も若手が一人辞めたんですが、理由を聞いても『一身上の都合です』としか言わないんです。本当の理由がわからないから、手の打ちようがない」

大阪・淀屋橋にある商社の人事マネージャーが、困った表情でそう話してくれました。従業員100名の中堅企業で、ここ2年ほど20代後半から30代前半の退職が続いている。年間の離職率は12%。業界平均を上回っており、経営者も危機感を持っている。

退職者に理由を聞いても、「家庭の事情」「キャリアアップのため」「一身上の都合」——当たり障りのない理由しか返ってこない。本当の退職理由がわからなければ、対策の立てようがありません。

しかし、退職者が本音を語らないのは、当然のことでもあります。「本当のことを言ったら、残っている同僚に迷惑がかかる」「円満退社したいから波風を立てたくない」「言っても今さら変わらないだろう」——退職者にとって、本音を語るメリットがないのです。

では、どうすれば退職面談を「本音が聞ける場」にし、そこから組織改善のヒントを得ることができるのか。私は関西の企業で退職面談の設計と運用に関わってきましたが、「正しく設計された退職面談」は、組織改善のための貴重な情報源になると実感しています。


なぜ退職面談が重要なのか

理由① 「退職理由」は組織の課題そのもの

一人の退職理由が「上司との関係」であれば、それは個人の問題かもしれません。しかし、複数の退職者が同じ理由を挙げていれば、それは組織の課題です。退職面談を通じて退職理由を体系的に収集・分析することで、組織の構造的な問題を発見できます。

理由② 在職者には言えない本音が聞ける

在職中の社員は、「不満を言ったら評価に響く」「波風を立てたくない」と考え、本音を語りにくい。しかし、退職が決まった社員は、「もう評価を気にする必要がない」ため、在職中には言えなかった本音を語りやすい状態にあります。

理由③ 退職者は「外部の目」で組織を見ている

退職を決めた社員は、転職活動を通じて他社の情報を得ています。自社の良い点と悪い点を「外部との比較」で語ることができるため、在職者よりも客観的な視点で組織の課題を指摘できます。


退職面談で本音を引き出す設計のポイント

ポイント① 面談者の選定

退職面談で最も重要なのは、「誰が面談するか」です。直属の上司が面談すると、本音が出にくい。退職理由が上司との関係に起因する場合はなおさらです。

面談者の候補と特徴:

人事部門の担当者:最も一般的。ある程度の客観性は確保できるが、「人事に言っても変わらない」と思われると本音が出ない。 経営者・役員:経営者が直接聞くことで、「会社が本気で改善しようとしている」というメッセージになる。ただし、経営者の前では緊張して本音が出ないこともある。 外部の第三者:最も本音が出やすい。「会社の人間ではないから、安心して話せる」という効果がある。ただし、コストがかかる。

関西の中小企業では、人事担当者が面談するケースが多いですが、私がお勧めするのは「退職者が話しやすい相手」を選ぶことです。退職者によって話しやすい相手は異なるため、「人事担当者」「信頼する先輩社員」「経営者」の中から退職者に選んでもらう方法も有効です。

ポイント② 面談のタイミング

退職面談のタイミングは、退職日の1〜2週間前が適切です。退職届を出した直後は感情的になっていることがあり、冷静な対話が難しい場合があります。逆に、退職日の直前すぎると、引き継ぎに忙しく十分な時間が取れません。

大阪のあるメーカーでは、退職日の2週間前に面談を実施し、さらに退職後1か月の時点で再度連絡を取る「フォローアップ」も行っています。退職後のほうが、より客観的な視点で話せることが多いためです。

ポイント③ 面談の雰囲気づくり

退職面談は、「取り調べ」ではありません。退職者が安心して話せる環境を作ることが重要です。

会議室ではなくカフェスペースなど、リラックスできる場所で行う 「退職を引き止めるための面談ではない」と最初に伝える 「あなたの意見は、会社の改善のために活かす」と趣旨を説明する メモを取る許可を求める(録音は原則しない) 「答えたくない質問は、答えなくて結構です」と伝える

ポイント④ 質問の設計

退職面談の質問は、「なぜ辞めるのですか」という直球ではなく、多角的に退職理由を探る設計にします。

導入の質問:

  • 今の率直な気持ちを教えてください
  • この会社で働いてよかったと思うことは何ですか

退職理由を探る質問:

  • 転職先を選んだ決め手は何ですか(間接的に現職への不満を聞ける)
  • いつ頃から退職を考え始めましたか
  • 退職を決断した「最後のきっかけ」は何でしたか
  • 何か一つ変えられるとしたら、この会社のどこを変えますか

組織に関する質問:

  • 上司との関係はどうでしたか
  • チームの雰囲気はどう感じていましたか
  • 自分の成長やキャリアに対して、会社からのサポートは十分でしたか
  • 報酬や待遇に対して、どう感じていましたか

改善に向けた質問:

  • この会社がもっと良くなるためには、何が必要だと思いますか
  • 後輩社員に対して、「こうすればよかった」というアドバイスはありますか
  • もし条件が変われば、戻りたいと思いますか。それはどんな条件ですか

特に効果的なのが、「転職先を選んだ決め手は何ですか」という質問です。「うちの会社の何が嫌か」と聞くと防衛的になりますが、「転職先の何が魅力か」と聞くと、裏返しとして現職への不満が自然に語られます。


退職面談のデータを組織改善に活かす方法

方法① 退職理由の体系化と分析

退職面談で得た情報を、個人の感想として放置するのではなく、体系的に分類・分析します。

退職理由の分類例:

  • 報酬・待遇に関する不満
  • 成長・キャリアに関する不満
  • 上司・マネジメントに関する不満
  • 仕事内容に関する不満
  • 人間関係に関する不満
  • ワークライフバランスに関する不満
  • 会社の方向性・将来性に関する不安

大阪のあるサービス業(従業員130名)では、過去2年間の退職面談データを分析した結果、以下のパターンが浮かび上がりました。

20代の退職理由の上位:「キャリアの先が見えない」「成長実感がない」 30代の退職理由の上位:「報酬が市場相場と乖離している」「マネジメントに不満」 40代の退職理由の上位:「会社の方向性に共感できない」「裁量がない」

年代別に退職理由が異なることが明確になり、年代別の対策が可能になりました。

方法② 「退職理由マップ」の作成

退職理由を部門別・年代別・在籍年数別にマッピングし、「どの組織に」「どんな課題があるか」を可視化します。

例えば、「A部門の入社2〜3年目の退職理由は、全員が『上司のマネジメント』を挙げている」というパターンが見えれば、A部門の管理職のマネジメント改善が急務であることがわかります。

方法③ 経営陣へのレポート

退職面談のデータを定期的に経営陣にレポートします。個人の退職理由をそのまま伝えるのではなく、匿名化した上で傾向として報告することがポイントです。

レポートの構成例:

  • 期間中の退職者数と退職率
  • 退職理由の分類と傾向
  • 前回レポートからの変化
  • 特に注意すべき課題
  • 改善のための提言

京都のある製造業では、半年に一度、「退職分析レポート」を取締役会に提出しています。このレポートがきっかけで、若手社員のキャリア面談制度が導入され、入社3年以内の退職率が前年比40%減少しました。

方法④ 具体的な改善アクションの実行

分析結果をもとに、具体的な改善アクションを実行します。退職面談のデータは、改善の「根拠」として非常に説得力があります。「退職者の60%が『キャリアの先が見えない』と言っている」という事実は、キャリアパス制度の導入を提案する際の強力な根拠になります。


退職面談で得た情報の取り扱い

退職面談で得た情報は、適切に取り扱う必要があります。

守秘義務の遵守

退職者から聞いた個人的な話や、特定の人物に関する発言は、匿名化した上で扱います。「○○さんがこう言っていた」という形で情報が漏れると、退職者の信頼を裏切ることになり、今後の退職面談で本音が聞けなくなります。

改善に使う、犯人探しには使わない

退職面談の情報は、「組織の改善」のために使うものであり、「誰が悪いか」を特定するために使うものではありません。特定の管理職への批判が多い場合でも、その管理職を糾弾するのではなく、「マネジメントスキルの向上」「マネジメント研修の実施」という形で建設的に対応します。


「アルムナイ(退職者)ネットワーク」の構築

退職面談をきっかけに、退職者との良好な関係を維持することも重要です。退職者が自社の「ファン」でいてくれれば、将来の再入社(アルムナイ採用)や、ビジネスパートナーとしての関係構築、あるいは口コミによる採用ブランディングにつながります。

大阪のあるコンサルティング会社では、退職者向けのSNSグループを運営しています。会社の近況を共有し、退職者同士のつながりも維持している。このネットワークを通じて、過去3年で2名のアルムナイ採用が実現しました。

退職面談の最後に、「もし良ければ、退職後もゆるやかにつながっていただけませんか」と伝えることが、アルムナイネットワークの第一歩になります。


関西の企業における退職面談の実態

関西の中小企業では、退職面談を「制度として」実施している企業はまだ少数派です。退職が決まったら事務的な手続きだけ行い、退職日を迎える——というケースが多い。

しかし、退職面談を制度化し、データを蓄積・分析している企業は、確実に組織改善の精度が上がっています。退職面談は、「退職を止める」ためではなく、「次の退職を防ぐ」ためのものです。一人の退職者の声が、残っている社員のために組織を変える力を持っています。

まずは、次の退職者から、丁寧な退職面談を始めてみてください。


まとめ:退職面談運用チェックリスト

  • [ ] 退職面談を制度として全退職者に対して実施しているか
  • [ ] 面談者を「退職者が話しやすい相手」で選定しているか
  • [ ] 面談のタイミングは退職日の1〜2週間前に設定しているか
  • [ ] 「引き止め」ではなく「本音を聞く」場として設計しているか
  • [ ] 質問項目を多角的に設計しているか
  • [ ] 退職理由を体系的に分類・蓄積しているか
  • [ ] 部門別・年代別・在籍年数別の分析を行っているか
  • [ ] 分析結果を定期的に経営陣にレポートしているか
  • [ ] 分析結果に基づく具体的な改善アクションを実行しているか
  • [ ] 退職者との良好な関係維持(アルムナイネットワーク)を意識しているか
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