関西の企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる組織づくり
組織開発

関西の企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる組織づくり

#1on1#採用#評価#組織開発#経営参画

関西の企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる組織づくり

「うちは働きやすい会社にはなった。でも、社員がイキイキしているかと言われたら……」

大阪・中之島のある中堅IT企業の人事部長が、複雑な表情でそう話してくれました。残業削減、有給取得推進、リモートワーク導入、育児・介護支援制度の充実——「働き方改革」として多くの施策を実行してきた。離職率は確かに下がった。しかし、「社員の目が輝いている」とは言い難い。新しい挑戦が生まれない。「言われたことはやるが、それ以上はやらない」という空気が漂っている。

「働きやすさ」は実現した。でも、「働きがい」が伴っていない。

これは、多くの関西の企業が直面している課題です。「働きやすさ」と「働きがい」は別の概念であり、片方だけを追求しても、組織は真に強くなりません。両方を同時に実現してこそ、社員が力を発揮し、事業が成長する組織になります。

私はこれまで500社以上の企業で人事に関わってきましたが、「働きやすさ」だけを追求した結果、組織の活力が失われるケースを何度も見てきました。逆に、「働きがい」だけを追求して労働環境を犠牲にし、社員が燃え尽きるケースも少なくありません。

この記事では、関西の企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる組織づくりについて、一緒に考えてみたいと思います。


「働きがい」と「働きやすさ」は何が違うのか

まず、「働きがい」と「働きやすさ」の違いを整理します。この二つは、しばしば混同されますが、本質的に異なる概念です。

「働きやすさ」とは

労働条件、職場環境、制度の整備に関わる要素です。具体的には、適切な労働時間、有給休暇の取得しやすさ、柔軟な勤務制度、ハラスメントのない環境、福利厚生の充実——こうした「衛生要因」と呼ばれる要素が「働きやすさ」を構成します。

「働きやすさ」が欠けていると、不満が生まれ、離職につながります。しかし、「働きやすさ」だけでは、積極的な満足やモチベーションは生まれにくい。

「働きがい」とは

仕事の意味、成長の実感、挑戦の機会、貢献の実感に関わる要素です。具体的には、仕事の面白さ、自分のスキルが活かされている実感、組織のミッションへの共感、チームの一体感、自分の仕事が社会に貢献しているという感覚——こうした「動機づけ要因」と呼ばれる要素が「働きがい」を構成します。

「働きがい」があると、社員は自発的に行動し、創意工夫を凝らし、困難な状況でも粘り強く取り組みます。

両方が必要な理由

「働きやすさ」だけの組織は、「居心地はいいが、刺激がない」状態になりがちです。現状維持の空気が支配し、新しい挑戦が生まれにくい。「ぬるま湯」と表現されることもあります。

「働きがい」だけの組織は、「やりがいはあるが、体がもたない」状態になりがちです。燃え尽き症候群のリスクが高く、長期的な持続性に問題があります。

両方が揃って初めて、「安心して挑戦できる組織」——これが、社員が最大のパフォーマンスを発揮できる状態です。


「働きやすさ」を支える基盤づくり

まず、「働きやすさ」の基盤を整えることが必要です。基盤がなければ、「働きがい」を追求する余裕が生まれません。

基盤① 労働時間の適正管理

関西の中小企業では、まだ長時間労働が常態化している企業が少なくありません。「うちの業界は忙しいから」「お客さんの都合に合わせなあかんから」——こうした理由で長時間労働が正当化されていますが、長時間労働は生産性を下げ、健康を損ない、離職を促進します。

大阪のある建設関連企業(従業員70名)では、「1日の残業上限2時間」を全社ルールとして設定し、それを超える場合は部門長の事前承認を必須にしました。導入当初は「仕事が回らない」という声が出ましたが、業務の優先順位づけと効率化が進み、3ヶ月後には「残業しなくても同じ成果が出せる」状態になりました。一人あたりの月間残業時間は40時間から15時間に減少し、従業員満足度調査のスコアが大幅に改善しました。

基盤② 柔軟な働き方の選択肢

コロナ禍を経て、リモートワークやフレックスタイムは珍しいものではなくなりました。しかし、関西の中小企業では「うちの業種では無理」と考えている企業も多い。確かに、製造業の現場作業や、接客業の店頭業務はリモートでは成り立ちません。しかし、「すべてをリモートにする」必要はなく、「できる部分だけ柔軟にする」アプローチは可能です。

事務部門のリモートワーク、営業のフレックスタイム、子育て中の社員の時短勤務——部分的な柔軟性を導入するだけでも、「この会社は社員のことを考えてくれている」という信頼感が生まれます。

基盤③ 心理的安全性の確保

「働きやすさ」の最も重要な要素の一つは、「安心して自分の意見を言える環境」です。上司に反対意見を述べても報復されない、ミスを隠さずに報告できる、「わからない」と言える——こうした心理的安全性が確保されていることが、働きやすい職場の根幹です。


「働きがい」を生み出す仕組みづくり

「働きやすさ」の基盤の上に、「働きがい」を生み出す仕組みを構築します。

仕組み① 「仕事の意味」を伝える——ミッションとの接続

社員が「自分の仕事は何のためにあるのか」を理解していることが、働きがいの出発点です。

「自社のミッション」→「部門の目標」→「チームの目標」→「個人の仕事」——この連鎖を、一人ひとりの社員に具体的に伝える。「あなたの仕事は、会社のこのミッションのこの部分に貢献している」——この「接続」が、仕事への意味付けになります。

京都のある化粧品メーカー(従業員50名)では、四半期ごとの全社集会で、社長が「事業の現状と方向性」を共有し、各部門長が「自部門の貢献」を説明します。さらに、各チームのミーティングで「自分たちの仕事がどう事業に貢献しているか」を話し合う。この「ミッションのカスケード(連鎖的共有)」が、社員の仕事への意味付けを強化しています。

仕組み② 「成長の実感」を設計する——チャレンジの機会

人は成長を実感できるときに、最も強い働きがいを感じます。しかし、「成長の実感」は自然に生まれるものではなく、意図的に設計する必要があります。

「今の仕事が上手になる」だけでは、いずれ成長が頭打ちになります。新しい仕事へのチャレンジ、異なる部門との協働プロジェクト、社外での学びの機会——こうした「コンフォートゾーンの外に出る機会」を意図的に作ることが、成長の実感につながります。

大阪のある電子部品商社(従業員40名)では、「社内公募制度」を導入しています。新しいプロジェクトや業務改善の取り組みに、自ら手を挙げて参加できる仕組みです。「普段の仕事とは違うことに挑戦できる」機会があることで、社員の成長意欲と働きがいが高まったと評価しています。

仕組み③ 「貢献の実感」をフィードバックする——承認と感謝

自分の仕事が誰かの役に立っている——この「貢献の実感」は、働きがいの重要な構成要素です。

しかし、日常の業務の中で「あなたの仕事は役に立っている」と伝えられる機会は、意外と少ない。意識的に「承認」と「感謝」を伝える仕組みを作ることが重要です。

1on1ミーティングでの「今月の良かった仕事」の振り返り、チームミーティングでの相互感謝の時間、経営者からの個別メッセージ——こうした「承認の仕組み」が、社員の「ここで働いている意味」を支えます。

神戸のある物流会社(従業員100名)では、社内SNS上で「サンクスカード」を送り合う仕組みを導入しています。「○○さん、先日の急な対応ありがとうございました」「△△さんのアドバイスで助かりました」——こうした小さな「ありがとう」の積み重ねが、組織全体のポジティブな雰囲気を作り、働きがいにつながっています。

仕組み④ 「自律性」を尊重する——裁量権の付与

自分で考え、自分で判断し、自分で行動できる「自律性」は、働きがいの重要な源泉です。すべてを上司の指示通りにやる仕事よりも、自分の裁量で進められる仕事の方が、やりがいを感じるのは自然なことです。

「細かく管理する」マネジメントから、「目標と方向性を示し、やり方は任せる」マネジメントへの転換が、社員の自律性と働きがいを高めます。

仕組み⑤ 「つながり」を感じられるチームづくり

チームの一体感、仲間との信頼関係——こうした「つながり」は、働きがいの重要な要素です。一人で仕事をするよりも、信頼できる仲間と一緒に目標に向かっている方が、仕事は面白い。

定期的なチームビルディングの機会、部門を超えた交流、共通の目標に向かうプロジェクト——こうした「つながりを感じられる場」を意識的に作ることが、働きがいのある組織づくりに寄与します。


関西の企業ならではの「両立」のヒント

関西の企業文化には、「働きがい」と「働きやすさ」を両立させるヒントがあります。

「実利」と「人情」のバランス

関西、特に大阪の企業文化には、「実利主義」と「人情」が共存する特徴があります。「数字はしっかり追う。でも、人は大事にする」——この両立の感覚は、「働きがい(成果と成長)」と「働きやすさ(環境と配慮)」の両立と通じるものがあります。

「ボトムアップ」の文化

関西の中小企業には、「現場からの改善提案」が活発な企業が多い印象があります。このボトムアップの文化は、社員の「自律性」と「貢献の実感」を高める力を持っています。

「おおらかさ」の強み

関西の企業文化に見られる「おおらかさ」は、心理的安全性の基盤になり得ます。失敗をユーモアで包み、互いの個性を認め合う——こうした文化は、「安心して挑戦できる」環境を自然に作り出します。


「両立」を経営の力にする

「働きがい」と「働きやすさ」の両立は、「社員のため」であると同時に、「経営のため」でもあります。

両方が高い水準で実現されている企業は、採用力が高く、離職率が低く、社員のパフォーマンスが高い。これは経営数字に直結します。

  • 採用コストの削減(良い評判が人を呼ぶ)
  • 離職コストの削減(辞めない組織は再投資が不要)
  • 生産性の向上(やりがいのある社員は自発的に動く)
  • イノベーションの促進(安心して挑戦できる環境が新しいアイデアを生む)

「働きがい」と「働きやすさ」の両立は、企業の持続的な競争力の源泉です。


「両立」は終わりのない旅

「働きがい」と「働きやすさ」の両立に「完成形」はありません。事業環境は変化し、社員の価値観は多様化し、組織は成長し続けます。「今の状態がベスト」と思った瞬間に、改善は止まります。

大切なのは、「社員がイキイキと働ける組織を作り続ける」という意志を持ち、定期的に現状を確認し、改善を続けること。社員満足度調査、1on1での対話、離職者へのヒアリング——こうした「声を聞く仕組み」を通じて、組織の状態を常に把握し、必要な手を打ち続ける。

関西の企業が、「働きがい」と「働きやすさ」を高い水準で両立させ、社員一人ひとりが力を発揮できる組織を作っていくこと。その実現に向けて、人事の立場から一緒に歩んでいきたいと思います。


まとめ:「働きがい」と「働きやすさ」の両立チェックリスト

働きやすさの基盤

  • [ ] 労働時間が適正に管理されているか
  • [ ] 柔軟な働き方の選択肢が用意されているか
  • [ ] 心理的安全性が確保されているか
  • [ ] ハラスメント防止の仕組みが機能しているか

働きがいの仕組み

  • [ ] 仕事とミッションの「接続」が伝わっているか
  • [ ] 成長の実感を得られるチャレンジの機会があるか
  • [ ] 承認と感謝のフィードバックが日常的に行われているか
  • [ ] 社員に適切な裁量権が付与されているか
  • [ ] チームの一体感やつながりを感じられる仕組みがあるか

モニタリング

  • [ ] 社員満足度調査を定期的に実施しているか
  • [ ] 離職理由のヒアリングを行っているか
  • [ ] 「働きがい」と「働きやすさ」の両方を定量的に把握しているか
0

経営視点で考える人事の実践力を磨きませんか?

書籍『「人事のプロ」はこう動く』著者による実践講座。現場で使える経営視点の人事力を身につけます。