関西の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩
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関西の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩

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関西の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩

「うちの会社は、何を言っても変わらないんです」

神戸・三宮にある老舗メーカーの人事課長が、疲れた表情でそう漏らしました。従業員200名の中堅企業で、創業60年を超える歴史ある会社。技術力は高く、業績も安定している。しかし、社内には「前例踏襲」の空気が充満していました。

新しい提案をしても「うちではやったことがない」と却下される。改善のアイデアを出しても「そんなことより目の前の仕事をしろ」と言われる。若手社員は「言ってもムダ」と諦め、黙々と指示された仕事をこなす。中堅社員は「余計なことを言って目立つと損する」と学習済み。こうして、組織は変化に対して閉じていく。

組織風土の問題は、多くの企業が感じているにもかかわらず、「どうすれば変えられるか」がわかりにくいテーマです。制度や仕組みは比較的短期間で変更できますが、組織に根づいた風土は簡単には変わりません。

しかし、変わらないわけではない。私は関西の企業で組織風土の変革に関わる中で、「正しい順番で、正しいことをやれば、組織風土は確実に変わる」と実感してきました。鍵は「最初の一歩」の踏み出し方にあります。


「組織風土」とは何か

組織風土とは、「その組織の中で、暗黙のうちに共有されている行動の規範やパターン」のことです。明文化されていない「こうするのが当たり前」「こういうことはやらない」という不文律の集合体です。

例えば、こんなことが組織風土の一部です。

  • 会議で上司の意見に反論するかどうか
  • 失敗したときに正直に報告するかどうか
  • 他部署の仕事に口を出すかどうか
  • 定時に帰ることに罪悪感を感じるかどうか
  • 新しいアイデアを歓迎するか、警戒するか

組織風土は、「制度」とは異なります。制度は書類上で変更できますが、風土は人の行動パターンとして根づいているため、制度を変えただけでは変わりません。「ノー残業デー」を制度化しても、「上司が帰らないと帰れない」という風土が変わらなければ、制度は形骸化します。


なぜ組織風土を変える必要があるのか

理由① 変化に対応できない組織は淘汰される

事業環境は常に変化しています。顧客のニーズの変化、技術の進化、競合の参入、規制の変更——こうした変化に対して、組織が柔軟に対応できなければ、事業の持続性が危ぶまれます。

大阪のある包装資材メーカーは、長年同じ製品を同じ顧客に供給してきましたが、顧客企業がサステナブル素材への転換を要求してきました。しかし、「前例のないことはやらない」という組織風土のため、新素材の開発になかなか着手できず、競合に先を越されてしまいました。組織風土が、事業上の判断の足かせになった事例です。

理由② 人材の確保と定着に影響する

「言っても変わらない」と感じた優秀な社員は、組織を去ります。特に若手社員は、「自分の意見が聞いてもらえる環境」「成長できる環境」を求めています。閉鎖的な風土は、人材の流出を加速させます。

京都のあるIT企業では、「上の言うことに従うだけの社風が嫌で辞めた」という退職理由が複数回続いたことをきっかけに、組織風土の改革に着手しました。

理由③ イノベーションが生まれない

新しいアイデアや改善提案が歓迎されない風土では、イノベーションは生まれません。「余計なことを言うと損をする」という風土の中では、社員は安全な選択しかしなくなります。


組織風土を変える「最初の一歩」

組織風土の変革は大きなテーマですが、「まず何から始めるか」が最も重要です。私の経験では、以下の順序で進めることが効果的です。

ステップ① 「変える必要がある」と経営者が宣言する

組織風土の変革は、経営者のコミットメントなしには始まりません。人事担当者だけが「風土を変えよう」と叫んでも、組織は動きません。経営者自身が「なぜ変える必要があるのか」「どんな組織にしたいのか」を自分の言葉で語ることが、最初の一歩です。

大阪のある建設会社(従業員150名)では、社長が全社朝礼で次のように話しました。「うちの会社は、技術力は業界トップクラスだ。しかし、正直に言うと、新しいことに挑戦する空気がない。これは私の責任でもある。これからは、失敗を恐れずに新しいことに挑戦する会社に変えたい。そのために、皆さんの意見やアイデアを聞かせてほしい」

この宣言の後、すぐに風土が変わったわけではありません。しかし、「社長が変わろうとしている」というメッセージは社員に伝わり、変化の土台ができました。

ステップ② 「小さな成功体験」を作る

風土の変革は、一夜にして実現するものではありません。まずは「小さな成功体験」を積み重ねることが重要です。

小さな成功体験の例:

  • 若手社員の改善提案を実行に移し、成果が出たことを全社で共有する
  • 部門横断のプロジェクトを立ち上げ、短期間で成果を出す
  • 「失敗共有会」を開催し、失敗から学んだことを称賛する

神戸のある食品会社では、「アイデア提案制度」を始めました。月に一度、社員が業務改善のアイデアを提出し、良いアイデアはすぐに実行に移す。最初は提案が少なかったものの、「提案したアイデアが本当に実行された」という実績が広がるにつれ、提案数が増えていきました。1年後には月間30件を超える提案が集まるようになりました。

ポイントは、「提案を採用したら、必ず実行する」ことです。「提案は受け付けるが、検討中のまま放置」が最も風土を悪化させます。

ステップ③ 「行動を変える」仕組みを作る

風土を変えるためには、社員の行動を変える仕組みが必要です。「意識を変えれば行動が変わる」のではなく、「行動を変えれば意識が変わる」のが現実です。

行動を変える仕組みの例:

会議の運営方法を変える:

  • 会議の冒頭5分を「若手社員の意見を聞く時間」にする
  • 「いいね」と言ってから意見を述べるルールを設ける
  • 会議のファシリテーターを持ち回りにする

コミュニケーションの場を変える:

  • 部門横断のランチ会を月に一度開催する
  • 経営者と社員が直接対話する「タウンホールミーティング」を実施する
  • 社内SNSやチャットツールで気軽にアイデアを共有できる場を設ける

大阪のある化学メーカー(従業員100名)では、「会議で上司の意見に反論できない」という風土を変えるために、会議の進行ルールを変更しました。具体的には、「提案者がまず説明し、その後、全員が一言ずつ感想を述べる。このとき、『良い点』を先に言い、その後に『改善点』を述べる」というルールです。このルールにより、「反論する」のではなく「改善点を提案する」という形に変わり、建設的な議論が生まれるようになりました。

ステップ④ 「変化した行動」を評価する

風土の変革を持続させるためには、「望ましい行動を取った人が評価される」仕組みが必要です。いくら「新しいことに挑戦しよう」と言っても、挑戦した人が評価されなければ、誰も挑戦しなくなります。

評価制度への組み込み方:

  • 「チャレンジ目標」を評価項目に追加する
  • 「他部署への協力」を評価項目に追加する
  • 「改善提案の実績」を評価に反映する

京都のある機械メーカーでは、評価項目に「変革行動」を追加しました。「業務改善の提案を行ったか」「新しい方法にチャレンジしたか」「他部署との連携を積極的に行ったか」——こうした行動を評価に反映することで、「変化する行動」を組織として後押ししています。

ステップ⑤ 「中間管理職」を巻き込む

組織風土の変革で最も重要なのが、中間管理職の巻き込みです。社員にとって、「組織風土」を体現しているのは直属の上司です。経営者がいくら変革を唱えても、直属の上司が旧来の行動を続けていれば、現場は変わりません。

中間管理職を巻き込むためのアプローチ:

  • マネジメント研修を通じて、変革の趣旨と期待される行動を伝える
  • 管理職同士の対話の場を設け、変革の進め方を議論する
  • 管理職自身の行動変容を評価に反映する
  • 管理職が困ったときに相談できるサポート体制を整える

大阪のある商社では、管理職向けの「マネジメント変革ワークショップ」を全4回で実施しました。第1回で「なぜ変わる必要があるのか」を議論し、第2回で「自分のマネジメントスタイルを振り返る」、第3回で「新しい行動を試してみる」、第4回で「試してみた結果を共有する」——このプロセスを通じて、管理職自身が「変わる」体験をし、その変化が現場に波及していきました。


関西の企業に見られる特徴的な風土課題

「トップダウン型」の意思決定風土

関西の中小企業では、創業者やオーナー経営者のカリスマ性で組織が動いてきたケースが多くあります。「社長が言えば決まる」「社長に聞けばわかる」——こうしたトップダウン型の意思決定は、スピードがある反面、社員の自律性が育ちにくいという課題があります。

この風土を変えるには、経営者自身が「自分が決めない」場面を意図的に作ることが効果的です。「この件は、君たちで考えて決めてほしい」と権限を委譲し、その結果を尊重する。最初は不安かもしれませんが、この繰り返しが社員の自律性を育てます。

「和を重んじる」あまりの同調圧力

関西の企業には、「みんな仲良く」「和を大事に」という文化があります。これ自体は悪いことではありませんが、「和を乱さないために本音を言わない」「反対意見を述べると空気を読めないと思われる」という同調圧力につながることがあります。

この風土を変えるには、「異なる意見を言うこと」を「和を乱す行為」ではなく「組織をより良くする行為」として位置づけ直すことが重要です。「反対意見を言ってくれたことに感謝する」「異なる視点を歓迎する」——こうした行動を管理職が率先して行うことで、「建設的な意見対立」が受け入れられる風土を作っていきます。

「前例踏襲」の安定志向

関西には、長い歴史を持つ企業が多くあります。「創業以来のやり方」「先代からの伝統」——こうした歴史は企業の強みでもありますが、変化への抵抗にもなりえます。

この風土を変えるには、「伝統を否定する」のではなく「伝統を進化させる」というメッセージが有効です。京都の老舗企業では、「不易流行」(変えてはいけないものと、変えるべきものを見極める)という言葉を使い、「守るべき価値観」と「変えるべき方法」を分けて議論する文化を作っている事例があります。


風土変革にかかる時間の目安

組織風土の変革には時間がかかります。「半年で変わる」という期待は、現実的ではありません。私の経験では、以下のような時間軸で進むことが多いです。

最初の3か月:変革の宣言と仕組みの導入。目に見える変化はまだ少ない。 3〜6か月:小さな成功体験が生まれ始める。一部の社員が行動を変え始める。 6〜12か月:変化が「一部の人だけのもの」から「組織全体のもの」に広がり始める。 1〜2年:新しい行動パターンが「当たり前」になり始める。 2〜3年:組織風土として定着する。

大切なのは、「変化が見えない時期」にも諦めずに続けることです。組織風土の変革は、経営者と人事の忍耐力が試される取り組みです。


まとめ:組織風土変革チェックリスト

  • [ ] 経営者が「なぜ変えるのか」を自分の言葉で語ったか
  • [ ] 「どんな組織にしたいか」のビジョンが明確か
  • [ ] 小さな成功体験を意図的に作る仕組みがあるか
  • [ ] 社員の行動を変える具体的なルールや仕組みを導入したか
  • [ ] 望ましい行動を評価に反映しているか
  • [ ] 中間管理職を変革のパートナーとして巻き込んでいるか
  • [ ] 「前例踏襲」ではなく「進化」のメッセージを発信しているか
  • [ ] 変革の進捗を定期的に確認し、軌道修正しているか
  • [ ] 2〜3年の長期視点で取り組む覚悟があるか
  • [ ] 人事自身が、変革の体現者として行動しているか
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