関西の中小企業がジョブ型雇用の考え方を取り入れる方法
制度設計・運用

関西の中小企業がジョブ型雇用の考え方を取り入れる方法

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関西の中小企業がジョブ型雇用の考え方を取り入れる方法

「うちもジョブ型を導入した方がいいんでしょうか」

大阪・心斎橋にあるアパレル卸の社長から、こんな相談を受けたことがあります。従業員45名の会社で、メディアで「ジョブ型雇用」が話題になるたびに、気になっていたとのこと。「大企業がどんどんジョブ型に移行しているのに、うちがメンバーシップ型のままだと時代遅れになるんじゃないか」と。

一方で、別の大阪の中小企業の人事担当者からは、こんな声も聞きます。「ジョブ型と言われても、うちみたいな少人数の会社では、一人が何役もこなさないと回らない。ジョブを明確に区切ったら、『それは私の仕事じゃありません』と言われそうで怖い」

どちらの声にも、もっともな理由があります。しかし、「ジョブ型を導入するか否か」という二者択一で考えること自体が、中小企業にとっては適切ではないと私は考えています。

大企業が進めるジョブ型雇用をそのまま中小企業に持ち込んでも、うまくいかないことが多い。しかし、ジョブ型の「考え方」——すなわち「仕事を基準に人材を配置し、処遇する」というエッセンスは、中小企業にとっても非常に有効です。

私は関西の中小企業で人事制度の設計に関わる中で、「ジョブ型の考え方を、中小企業の実態に合わせて部分的に取り入れる」アプローチが最も現実的で効果的だと実感してきました。その具体的な方法をお伝えします。


そもそも「ジョブ型」とは何か

ジョブ型雇用について、まず基本を整理します。

「ジョブ型」とは、「仕事(ジョブ)」を基準にして人材を配置し、処遇する仕組みです。ジョブディスクリプション(職務記述書)で仕事の内容、責任範囲、必要なスキルを明確に定義し、そのジョブに対して報酬を設定します。人が変わっても、同じジョブであれば同じ報酬が適用される。これがジョブ型の基本的な考え方です。

一方、日本の多くの企業で伝統的に採用されてきた「メンバーシップ型」は、「人」を基準にした仕組みです。まず人を採用し、その人の能力や経験に応じて仕事を割り振る。異動や配置転換によって様々な仕事を経験させ、ゼネラリストとして育成する。年功的な要素が強く、同じ年次であれば似たような処遇になりやすい。

どちらが良い・悪いではなく、それぞれに長所と短所があります。

メンバーシップ型の長所は、柔軟な人材配置ができること、社員に幅広い経験を積ませられること、組織への帰属意識が高まりやすいこと。短所は、「何をすれば評価されるか」が不明確になりやすいこと、専門性が育ちにくいこと、年功的な処遇が能力や成果との乖離を生みやすいこと。

ジョブ型の長所は、「何をすれば評価されるか」が明確であること、専門性が評価されやすいこと、市場価値に基づく処遇ができること。短所は、仕事の範囲外への対応が減りやすいこと、組織の柔軟性が下がりやすいこと、ジョブの定義と運用に手間がかかること。


中小企業が「丸ごとジョブ型」にできない理由

関西の中小企業がジョブ型雇用を「丸ごと」導入するのが難しい理由は、主に3つあります。

理由① 一人何役が当たり前

従業員50名以下の企業では、一人の社員が複数の役割を兼務するのが普通です。経理担当者が総務も兼ねる。営業担当者がマーケティングも受注処理もやる。工場の班長が品質管理もラインの改善もやる。こうした状況で、一つのジョブに一人を固定するのは現実的ではありません。

大阪のある金属加工メーカー(従業員30名)では、「うちは全員がマルチプレーヤー。一つの仕事しかやらない人がいたら、会社が回らない」と社長が言います。これは中小企業の現実であり、ジョブ型の「仕事を明確に区切る」という考え方と真っ向から衝突します。

理由② ジョブディスクリプションの作成・維持が大変

大企業がジョブ型を導入する際には、数百から数千のジョブディスクリプションを作成し、専門のチームが維持管理します。中小企業にそのリソースはありません。しかも、中小企業は事業環境の変化に応じて仕事の内容が頻繁に変わるため、一度作ったジョブディスクリプションがすぐに陳腐化してしまいます。

理由③ 社員のキャリアパスが限られる

大企業では、ジョブ型であっても社内に多くのジョブがあるため、異動やキャリアチェンジの選択肢が豊富です。しかし、中小企業ではポジション数が限られているため、「このジョブをやり続ける以外に道がない」という状況になりやすい。これでは社員の成長意欲を維持するのが難しくなります。


「ジョブ型の考え方」を部分的に取り入れるアプローチ

では、中小企業にとって現実的なアプローチとはどのようなものか。私がお勧めするのは、「ジョブ型の考え方を、自社の実態に合わせて部分的に取り入れる」方法です。

アプローチ① 「役割定義書」を作る

ジョブディスクリプションの簡易版として、「役割定義書」を作成します。完璧なジョブディスクリプションは求めず、「この人は何を担当し、どんな成果を出すことを期待されているか」をA4一枚程度で定義するものです。

役割定義書に含める項目:

  • 担当する主な業務(箇条書きで5〜10項目)
  • 期待される成果(数値目標または状態目標)
  • 必要なスキル・経験
  • 報告先と連携先
  • 兼務している業務(ある場合)

大阪のある広告制作会社(従業員25名)では、全社員分の役割定義書を作成しました。「一人何役」の現実に対応するため、「主担当業務:60%」「副担当業務:30%」「その他・突発対応:10%」のように、業務の配分も含めて記載しています。社長は「これを作ったことで、『誰が何をやっているか』が初めて見える化できた。兼務の負荷が偏っている社員もわかり、業務の再配分ができた」と話しています。

アプローチ② 一部の職種からジョブ型的な処遇を導入する

全職種を一斉にジョブ型にするのではなく、「専門性が高く、市場価値が明確な職種」から段階的にジョブ型的な処遇を導入する方法です。

ジョブ型的な処遇を導入しやすい職種:

  • ITエンジニア(スキルと市場価値が明確)
  • 経理・財務(資格や専門知識が評価軸になる)
  • 法務・知的財産(専門性が高く、市場での需要が明確)
  • 品質管理・品質保証(専門資格との連動がしやすい)

神戸のあるIT企業(従業員50名)では、エンジニア職のみジョブ型的な処遇を導入しました。具体的には、「バックエンドエンジニア」「フロントエンドエンジニア」「インフラエンジニア」の3つのジョブを定義し、各ジョブに対して4段階のグレードを設定。グレードごとに期待されるスキルと責任範囲、報酬レンジを明確にしました。

一方、営業職や管理部門はメンバーシップ型的な処遇を維持しています。「エンジニアは市場価値に連動した報酬にしないと採用できない。でも、営業は人間関係やチームワークが重要なので、ジョブ型よりもメンバーシップ型の方が合っている」という判断です。

アプローチ③ 「期待役割」を評価に組み込む

人事評価の仕組みに、ジョブ型的な「期待役割」の要素を組み込む方法です。評価の基準を「年功」や「能力」から「役割と成果」に移行することで、ジョブ型の考え方を取り入れることができます。

京都のある精密機械メーカー(従業員80名)では、評価基準を以下のように再設計しました。

従来の評価:「能力」(知識、スキル、態度)を5段階で評価 新しい評価:「役割遂行度」(期待された役割をどの程度果たしたか)+「成果」(具体的な成果物・数値)で評価

「能力があるかどうか」ではなく、「期待された役割を果たしたかどうか」で評価する。これにより、年功的な運用に歯止めがかかり、若手でも役割を果たせば高い評価を得られるようになりました。

アプローチ④ 「スキルベース」の報酬体系を取り入れる

ジョブ型の特徴である「仕事基準の報酬」を、中小企業の実態に合わせて「スキルベース」の報酬体系として導入する方法です。特定のスキルや資格を習得するごとに、報酬に反映される仕組みです。

大阪のある設備工事会社(従業員40名)では、技術者のスキルを5段階で定義し、各段階のスキルを習得するごとに手当が加算される仕組みを導入しました。

  • レベル1:基本作業ができる(手当なし)
  • レベル2:一人で現場を任せられる(月額1万円加算)
  • レベル3:複雑な案件を担当できる(月額2万円加算)
  • レベル4:後輩の指導ができる(月額3万円加算)
  • レベル5:現場全体のマネジメントができる(月額5万円加算)

「何ができるようになれば、いくら上がるか」が明確なため、社員のスキルアップの動機づけにもなっています。


導入のステップ

ステップ① 現状の棚卸し

まず、現在の人事制度がどのような仕組みになっているかを棚卸しします。等級制度、評価制度、報酬制度の現状を整理し、「何が機能していて、何が課題か」を明らかにします。

ステップ② 経営課題との接続

ジョブ型の考え方を取り入れる目的を、経営課題と接続させます。「専門人材の採用・定着が課題」「年功的な処遇を成果に連動させたい」「社員のキャリア自律を促したい」——目的によって、取り入れ方が変わります。

大阪のあるソフトウェア開発会社では、「エンジニアの採用力強化」が最優先課題でした。ジョブ型的な処遇を導入した目的は、「市場価値に見合った報酬を提示できるようにする」こと。経営課題に直結した導入目的があるからこそ、経営者の理解も得やすくなります。

ステップ③ パイロット部門での試行

全社一斉ではなく、まずは一つの部門でパイロット的に試行します。3〜6か月の試行期間を設け、運用上の課題を洗い出し、改善を重ねた上で、他の部門に展開していきます。

ステップ④ 社員への丁寧な説明

ジョブ型の考え方を取り入れる際に最も重要なのが、社員への説明です。「何のために変えるのか」「自分にとって何が変わるのか」「不利益はあるのか」——こうした疑問に丁寧に答えることが、制度の浸透に不可欠です。

特に関西の中小企業では、「会社は家族」という意識が根強い場合があります。ジョブ型の導入が「人をドライに扱う」という印象を与えないよう、「社員一人ひとりの専門性を正当に評価し、成長を支援するための仕組み」という趣旨を丁寧に伝えることが大切です。

ステップ⑤ 継続的な改善

導入後も、定期的に運用状況を確認し、改善を続けます。「役割定義書が実態と乖離していないか」「評価基準が適切に機能しているか」「社員の納得感は得られているか」——こうした点を半年ごとにレビューし、必要に応じて修正します。


関西の中小企業に合った「ハイブリッド型」の設計

私が関西の中小企業にお勧めしているのは、メンバーシップ型とジョブ型の「ハイブリッド型」です。

ハイブリッド型の特徴:

  • 基本はメンバーシップ型(柔軟な配置、チームワーク重視)
  • 評価基準にジョブ型の要素を導入(役割定義、成果評価)
  • 専門職にはジョブ型的な処遇を適用(市場価値連動の報酬)
  • キャリアパスはメンバーシップ型の良さを残す(異動による成長機会)

大阪のある化学品専門商社(従業員70名)では、以下のようなハイブリッド型を設計しました。

一般職(入社〜5年目):メンバーシップ型で幅広い経験を積む 専門職(6年目〜):営業、技術、管理の3コースに分岐し、ジョブ型的な処遇 管理職:マネジメントと専門職のデュアルラダーを設定

「若いうちは色々な仕事を経験して視野を広げる。ある程度経験を積んだら、自分の専門性を軸にキャリアを構築する」——この設計は、中小企業の現実と社員のキャリア発達の両面から合理的です。


まとめ:ジョブ型導入チェックリスト

  • [ ] 「なぜジョブ型の考え方を取り入れるのか」の目的が明確か
  • [ ] 経営課題との接続が明確か
  • [ ] 全社一斉ではなく、段階的な導入計画になっているか
  • [ ] 中小企業の「一人何役」の実態を踏まえた設計になっているか
  • [ ] 役割定義書(簡易版ジョブディスクリプション)を作成したか
  • [ ] 評価基準に「役割遂行度」と「成果」を組み込んだか
  • [ ] 専門性の高い職種にジョブ型的な処遇を設定したか
  • [ ] 社員への説明と対話を十分に行ったか
  • [ ] パイロット部門での試行を経て、全社展開しているか
  • [ ] 半年ごとの運用レビューと改善体制を整えたか
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