「制度は作ったのに、現場が使っていない」——関西の人事が向き合う制度設計・運用のリアル
制度設計・運用

「制度は作ったのに、現場が使っていない」——関西の人事が向き合う制度設計・運用のリアル

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「制度は作ったのに、現場が使っていない」——関西の人事が向き合う制度設計・運用のリアル


1. 冒頭:読者のモヤモヤを言葉に

「人事制度を整えたのに、現場では形骸化している」

「規程集は完備されているが、管理職が内容を把握していない」

制度設計に時間とエネルギーを注いだのに、現場に届いていない——そんな経験をしたことがある人事担当者は少なくないのではないでしょうか。

制度の問題は、多くの場合「作り方」より「運用の仕方」にあります。どんなに精緻な制度でも、現場に使われなければ、それは「存在する制度」ではなく「紙の上の制度」です。この記事では、制度設計・運用の本質と、関西企業の現場に合った実践の考え方を、一緒に整理してみたいと思います。


2. 関西ならではの文脈

関西の中小企業は、制度整備が遅れているケースと、逆に制度を増やしすぎて運用が追いつかないケースの両方があります。

前者は「経営者の判断が制度より優先される」文化が強い企業。「うちは経営者が直接見てるから大丈夫」という組織では、制度を整えることへの優先度が低く、人事担当者が孤軍奮闘するケースが多い。また、後継者への事業承継が控えている企業では、「承継後に誰がルールを守るか」という観点から制度整備の必要性が高まっています。

後者は、外部のコンサルティングや補助金制度を活用して制度を一気に整備したものの、管理職や社員の理解が追いつかず、形だけになってしまうパターンです。

どちらにも共通するのは、「制度を現場と一緒に育てていく」視点の欠如です。また2025年大阪万博後に人材流動性が高まる中、制度の透明性や公正感は採用競争においても重要な要素になっています。

関西の産業特性として、製造業・卸売業・小売業では「昔からのやり方」が組織に根付いていることが多く、制度変更への抵抗感が強いケースも見られます。一方で、医療・福祉・IT系では人材不足が深刻で「制度で人を引き留めたい」という経営者の意識が高まっています。業種ごとの文脈を理解した上で制度設計・運用のアプローチを選ぶことが、関西の人事担当者には求められています。


3. なぜ今この課題が重要か

人事制度は、企業のメッセージです。「この会社はこういう行動を大切にしている」「こういう成長をした人を評価する」——それが制度という形で表現されています。

制度が機能しないと、社員は「会社のメッセージを読めない」状態になります。行動の基準が曖昧になり、優秀な人ほど「何をすれば報われるかわからない」と感じて離職しやすくなる。

関西の中小企業では深刻な人手不足が続いており、後継者問題も絡む経営課題として人材定着は急務です。制度設計・運用の投資効果は、離職率の変化・採用競争力・管理職の判断精度という形で実際の数字に影響します。たとえば制度が機能して若手の早期離職が1〜2名減るだけで、採用コスト・オンボーディングコスト合わせて数十万〜百万円規模のコスト削減効果になりえます(職種・企業規模による差異があります)。「制度がきちんと機能している企業かどうか」は、採用候補者が企業を選ぶ際の判断材料にもなっています。


4. 実践に向けた3つの視点

視点① 制度の「目的」を先に決める

制度設計でよくある失敗は、「どんな制度にするか」から考え始めることです。「グレード制にするか職務制にするか」「何段階評価にするか」——これらはすべて手段であって、目的ではありません。

「この制度で、どういう行動を促したいのか」「3年後に組織をどういう状態にしたいのか」——この目的から逆算して制度の設計思想を決めることで、制度が「道具」として機能するようになります。目的なき制度は、どんなに精緻でも現場には刺さりません。

視点② 現場を「制度設計のプロセス」に巻き込む

制度を人事が密室で設計し、完成品を現場に通達する——このやり方では、現場の「自分事感」が生まれにくい。特に管理職は、制度を運用する主体です。彼らが「この制度の意図」を自分の言葉で語れないと、部下への説明も形式的になってしまいます。

制度設計のプロセスに現場の声を取り込む機会を意図的に作ること——たとえば管理職への事前ヒアリング、ドラフト段階でのフィードバックセッション——これが制度の「受け入れ率」を高めます。

視点③ 「制度の更新」を仕組み化する

制度は、一度作ったら終わりではありません。事業環境・組織規模・メンバーの多様性——これらの変化に合わせて制度も変わっていく必要があります。

「年に一度、制度の効果を振り返り、必要があれば見直す」という習慣を持てると、制度が「時代遅れの制度」になるリスクを防げます。見直しのトリガーとなる指標(離職率・評価への不満率・未活用制度の件数など)を予め設定しておくと、定期的な見直しが組織の文化になっていきます。


5. 事例・エピソード

ある関西の卸売業(従業員約220名)では、数年前に外部コンサルタントの支援で人事制度を全面改訂しました。等級定義・評価基準・賃金テーブルがすべて整備されたのですが、2年後に確認すると「管理職の半数が等級定義を説明できない」という実態が出てきました。

制度はあるのに、機能していない。人事が取り組んだのは「制度の再教育」ではなく、「制度の意図を現場で語り直す場」の設置でした。等級ごとに「この等級に求める仕事の姿」を、管理職が自分の担当部署の言葉に翻訳するワークショップを実施。

3ヶ月後の評価面談での上司・部下のやり取りが変わり始め、「評価の理由が説明できるようになった」という管理職からのフィードバックが増えました。制度を変えたのではなく、「制度の使い方」を現場に根付かせたことが転機でした。

別のケースとして、兵庫県の製造業(従業員約80名)での経験を紹介します。この会社では、長年「社長の頭の中の基準」で評価が行われていました。優秀な社員は社長に認められればよいが、社員数が増えるにつれて「なぜあの人が昇格して自分はしないのか」という不満が出始めた。

人事担当者が最初にやったことは「現状の仕組みを言語化すること」でした。社長が評価しているポイントを丁寧にヒアリングし、「社長の頭の中にある基準」を文書化した。これを等級定義の素案として社長に確認してもらい、修正しながら「言語化された評価基準」が初めてできあがった。

正式な「制度改訂」とは言えない地味な作業でしたが、この言語化によって評価説明が可能になり、社員からの「評価が見えない」という不満が半年で大幅に減少。コンサルタントを入れるより低コストで、現場に合った制度の土台を作れたことが、経営者に評価された点でした。


6. よくある失敗パターン

「他社の制度を参考にそのまま導入する」

業界水準や他社事例は参考になりますが、自社の文化・事業フェーズ・人員構成と合わない制度は機能しません。「他社がやっているから」は、導入の理由にはなりにくい。「自社の何を解決するための制度か」を常に起点にすることが大切です。

制度を「完璧にしてから運用する」と待ち続ける

制度の完成を追い求めすぎると、着手が遅くなります。70点の制度を動かしながら改善するほうが、100点の制度を3年後に出すより組織への効果は高いことが多い。「試行運用」「パイロット部署での先行実施」など、段階的な展開が有効です。

運用フォローを人事だけでやろうとする

制度の運用は、人事が一人で担えるものではありません。管理職が制度を使いこなすためのサポート——FAQ整理、相談窓口、評価面談の事前確認——これらを人事が設計し、管理職と協働して運用する体制をつくることが、制度の定着には不可欠です。

制度変更の「伝え方」を疎かにする

制度の改訂内容が正式に決まった後、「資料を配布すれば伝わる」という思い込みで動くと、現場に届かないことが多い。特に管理職が「この制度変更によって自分の部署はどう変わるか」を理解できていないと、部下への説明が形式的になってしまいます。制度変更のコミュニケーション計画——いつ・誰に・どう伝えるか——を制度設計と同時に考えることが、運用の定着率を左右します。


制度が「機能している」状態とはどういうことか

制度の目的は「人事が管理しやすい仕組みを作る」ことではなく、「社員が仕事を通じて成長し、組織が前に進む状態を作る」ことです。制度が機能しているかどうかを判断するために、以下のような観点で現状を確認することができます。

  • 管理職が「なぜこの評価をしたか」を言葉で説明できているか
  • 社員が「自分に期待されていること」を理解しているか
  • 制度に関する問い合わせや不満の内容が変化してきているか
  • 採用候補者から「御社の制度について教えてください」と聞かれたとき、自信を持って説明できるか

これらの問いに対して「できている」と言える状態を目指すことが、制度が「紙の上だけ」ではなく「現場で生きている」状態になる指標です。

関西の中小企業では、こうした「制度の健全性チェック」を年に一度行う慣習がまだ少ないかもしれません。でも、経営者がコスト意識の高い関西だからこそ、「この制度は現場で機能しています。効果はこうです」と定期的に報告できる人事が、経営の信頼を積み重ねていけるのではないでしょうか。制度を「持っていること」ではなく「機能させていること」を誇れる人事を目指しましょう。


制度設計における「スモールスタート」の発想

関西の中小企業では、「大きな制度改革」に取り組む前に、「小さな制度の改善」から始めることの方が現実的なことがあります。

たとえば、評価制度全体を見直す前に「評価面談のやり方だけを標準化する」。賃金体系を変える前に「等級定義だけを言語化してみる」。労働時間管理の仕組みを整える前に「残業申請の承認フローを明確にする」——こうした一点突破の取り組みが、制度変革の足がかりになります。

スモールスタートのメリットは、「失敗コストが低く、学習コストが高い」こと。小さく始めて現場の反応を確認しながら、必要に応じて広げていく——この「実験的なアプローチ」が、制度を「机上の空論」にしない実践的な方法です。


7. 「事業を伸ばす人事」を関西から

制度設計は、「人事が管理のための道具を作る」ことではないと思っています。「事業の方向性に沿って、人の行動を促す仕組みを設計する」——それが本質です。

関西の商売人文化の視点から言えば、「この制度によって何が変わるか」を語れる人事が、経営の信頼を勝ち取れます。制度の精緻さより、制度が現場で機能している実感——それを積み上げることが、人事の仕事の価値を高めていくはずです。

制度は「作って終わり」ではなく、「使われることで初めて価値を持つ」。そのためのプロセスと運用設計こそが、人事担当者の腕の見せどころではないでしょうか。関西の現場で制度設計に取り組む人事担当者の努力が、一人ひとりの社員の行動を変え、組織の力を変え、事業の成果を変えていく——その連鎖を信じて、今日の仕事に向き合っていきましょう。制度は地味な仕事の積み重ねです。でも、その地道さが組織の「見えない土台」を作っていく。関西の現場から、事業に届く制度づくりを一緒に進めていきましょう。


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