関西の企業が人事と現場の「壁」を壊す方法
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関西の企業が人事と現場の「壁」を壊す方法

#1on1#エンゲージメント#採用#評価#研修

関西の企業が人事と現場の「壁」を壊す方法

「人事が作った制度を現場に持っていくと、『また人事が余計なことを始めた』って言われるんです。こっちは良かれと思ってやっているのに」

大阪・淀屋橋にあるメーカーの人事課長が、苦笑いでそう話してくれました。従業員120名の中堅企業で、人事部門は3名体制。新しい評価制度を設計し、研修プログラムを企画し、エンゲージメントサーベイを実施する。しかし、現場からの反応は冷ややか。「忙しいのに、そんなことやってる暇はない」「現場のことをわかっていない人事が作った制度は使えない」——そんな声が、人事担当者の耳に入ってきます。

一方、現場のマネージャーからはこんな声を聞きます。「人事は現場のことを知らずに、机の上で制度を作っている」「相談しても、規程の説明をされるだけで、現場の事情を理解してくれない」「採用した人が現場に合わなかったのに、人事は知らん顔」。

人事と現場の「壁」——これは多くの企業に共通する構造的な問題です。そして、この壁がある限り、どんなに良い制度や施策も効果を発揮できません。

私は関西の企業で人事に関わる中で、この「壁」を壊すことが人事の仕事の中で最も重要なテーマの一つだと実感してきました。その経験をもとに、壁が生まれる原因と、壊すための具体的な方法をお伝えします。


なぜ「壁」が生まれるのか

原因① 「情報の非対称性」

人事は、全社の人員構成、評価データ、離職率、採用市場の動向——こうした情報を持っています。一方、現場は「自部署の日々の業務の実態」「お客様の反応」「現場で起きている問題」を肌感覚で知っています。

お互いが持つ情報が異なるため、「人事はこれが正しいと思う」と「現場はこうあるべきだ」がかみ合わない。この情報の非対称性が、壁の根本原因の一つです。

原因② 「優先順位の違い」

人事の優先順位は「組織全体の最適化」。現場の優先順位は「目の前の業績達成」。この優先順位の違いが、衝突を生みます。

例えば、人事が「管理職研修を実施したい」と提案しても、現場は「今は繁忙期だから、研修に時間を取られたくない」と感じる。どちらの主張にも合理性がありますが、優先順位が違うために対立が起きるのです。

原因③ 「相互理解の不足」

人事が現場の仕事を知らない。現場が人事の仕事を知らない。お互いの仕事への理解が不足しているため、「あの部門は何をしているかわからない」「うちの苦労を知らない」という不信感が生まれます。

京都のある製造業(従業員90名)では、人事担当者が工場に一度も足を運んだことがなかった。「工場のことは工場長に任せているから」。しかし、工場の社員からは「人事は工場の大変さを知らない。エアコンの効いたオフィスで、現場に合わない制度を作っている」という不満が蔓延していました。

原因④ 「過去の失敗体験」

以前、人事が導入した制度が現場に合わなかった。使いにくいシステムを押し付けられた。人事の約束が守られなかった——こうした過去の失敗体験が、「人事に対する不信感」として蓄積されているケースがあります。


壁を壊すための「5つのアプローチ」

アプローチ① 人事が「現場に出る」

壁を壊す第一歩は、人事担当者が現場に物理的に出ることです。オフィスに座って制度を設計するのではなく、現場の「空気」を感じ、「言葉」を聞くことから始めます。

具体的な活動:

  • 月1回以上、各部署を訪問し、マネージャーや社員と雑談する
  • 現場の会議に同席させてもらう(発言はせず、観察する)
  • 繁忙期には現場の手伝いをする(簡単な業務でも可)
  • ランチを一緒に取る(「ランチ人事」と呼ぶ企業もある)

大阪のある物流企業(従業員100名)では、人事担当者が月に1日、倉庫での仕分け作業を手伝うことにしました。「たった1日ですが、現場の大変さが体感できた。こんなに暑い中で働いているのに、休憩室にエアコンがなかったことを初めて知りました」。この体験をきっかけに、現場の労働環境改善に取り組み、現場からの人事への信頼が大きく向上しました。

アプローチ② 「制度を作る前に現場に聞く」

新しい制度や施策を設計する際に、「作ってから現場に説明する」のではなく、「作る前に現場の意見を聞く」プロセスを入れます。

具体的な方法:

  • 制度設計の初期段階で、現場のマネージャー数名に「こんなことを考えているのですが、どう思いますか?」とヒアリングする
  • 制度の「素案」を現場に見せ、フィードバックをもらってから完成させる
  • 現場のマネージャーを制度設計のプロジェクトメンバーに含める

「巻き込む」ことで、現場は「自分たちも関わった制度」として受け入れやすくなります。反対に、「知らない間に決まった制度」は、内容が良くても反発を受けやすい。

神戸のあるサービス業(従業員60名)では、評価制度の改定にあたり、現場マネージャー5名を「評価制度改定プロジェクトチーム」に参画させました。「現場が参加して作った制度だから、運用もスムーズにいった」と人事部長は振り返っています。

アプローチ③ 「人事の仕事」を現場に見せる

人事が何をしているか、現場は意外と知りません。「人事=採用と給与計算」くらいの認識しかないケースも多い。人事の仕事の全体像を現場に共有することで、相互理解が深まります。

共有の方法:

  • 全社ミーティングで、人事の取り組みと成果を定期的に報告する
  • 採用の進捗、離職率の推移、研修の実施状況——こうしたデータを現場にオープンにする
  • 「人事通信」のような社内ニュースレターで、人事の活動を発信する

大阪のあるIT企業(従業員55名)では、月1回の全社ミーティングで「人事レポート」の時間を5分間設けています。「今月の採用状況」「離職者の傾向分析」「次に計画している施策」を簡潔に報告。「人事が何を考えているかわかるようになった」「自分たちの声が反映されていることがわかった」と、現場からの評価が向上しました。

アプローチ④ 「現場マネージャーの人事力」を高める

人事の仕事は、人事部門だけのものではありません。部下の育成、評価、モチベーション管理——現場のマネージャーこそが「日常の人事」を担っています。

現場マネージャーに「人事的な知識とスキル」を提供することで、人事と現場が「同じ言葉」で対話できるようになります。

提供する知識とスキル:

  • 評価制度の目的と運用のポイント
  • 1on1ミーティングの進め方
  • フィードバックの仕方
  • 労務管理の基礎(勤怠、ハラスメント防止など)
  • 採用面接の評価基準と面接技法

京都のあるメーカー(従業員80名)では、年2回、管理職向けの「人事力研修」を実施しています。「人事が何を考えて制度を作っているか」「管理職として何をすればいいか」を伝える場です。「研修を受けてから、人事との会話がスムーズになった」と管理職から好評です。

アプローチ⑤ 「共通のゴール」を設定する

人事と現場がバラバラの方向を向いているのではなく、「共通のゴール」に向かって協力する体制を作ります。

例えば、「離職率を年間5%下げる」というゴールを人事と現場で共有する。人事は「離職分析と制度改善」を担い、現場は「マネジメントの改善」を担う。同じゴールに向かう「仲間」としての関係が生まれます。

大阪のある専門商社(従業員75名)では、「3年以内離職率20%以下」という目標を人事と各部署の共通KPIに設定しました。四半期ごとに進捗を共有し、「人事側のアクション」と「現場側のアクション」をそれぞれ報告し合う場を設けています。「同じ目標を追いかけることで、対立ではなく協力の関係が生まれた」と人事課長は語っています。


関西の企業文化と「壁」の壊し方

「距離が近い」ことを活かす

関西の中小企業は、東京の大企業と比べて物理的な距離が近い。人事部門と現場が同じフロアにいることも多い。この距離の近さは、壁を壊すアドバンテージです。「ちょっと話聞いてもらえますか」——こうした気軽な対話が、壁を徐々に薄くしていきます。

「飲みニケーション」だけに頼らない

関西には「飲みに行って本音を話す」文化がありますが、飲み会だけで壁は壊れません。仕組みとして「対話の場」を設けることが重要です。飲み会は人間関係を潤滑にする効果がありますが、構造的な問題の解決には制度的なアプローチが必要です。

「人情」で関係を作る

関西の企業文化には「人情」があります。困っている現場に対して、人事が「何かお手伝いできることはありませんか」と一言声をかける。急な採用依頼にも「なんとかします」と応える。こうした「人情」の積み重ねが、信頼関係の土台になります。


壁を壊した先にあるもの

人事と現場の壁がなくなると、組織には大きな変化が起きます。

  • 現場の課題が人事にリアルタイムで共有され、対策が迅速に打てるようになる
  • 人事が設計した制度が現場で機能し、成果を上げるようになる
  • 採用の精度が上がる(現場のニーズを正確に反映した採用ができる)
  • 離職率が下がる(現場の問題を早期に発見・対処できる)
  • 組織全体のエンゲージメントが向上する

人事と現場は、「対立する関係」ではなく、「組織の成果を一緒に生み出すパートナー」です。関西の企業が、この壁を壊し、人事と現場が一体となって組織を強くしていくこと。その実現に向けて、今日からできることから始めてみてください。


まとめ:人事と現場の壁を壊すチェックリスト

  • [ ] 人事担当者が月1回以上、現場を訪問しているか
  • [ ] 新制度の設計前に、現場の意見を聞くプロセスがあるか
  • [ ] 現場のマネージャーを制度設計に参画させているか
  • [ ] 人事の活動・成果を全社に定期的に共有しているか
  • [ ] 管理職向けの「人事力研修」を実施しているか
  • [ ] 人事と現場で「共通のゴール」(KPIなど)を設定しているか
  • [ ] 現場の繁忙期や課題を人事が理解しているか
  • [ ] 現場からの相談に対して、規程の説明だけでなく現場事情に寄り添った対応をしているか
  • [ ] 過去の「人事への不信感」の原因を把握し、改善に取り組んでいるか
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