関西の企業が「心理的安全性」のある職場を作る方法
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関西の企業が「心理的安全性」のある職場を作る方法

#1on1#評価#研修#組織開発#制度設計

関西の企業が「心理的安全性」のある職場を作る方法

「うちの会議、誰も発言しないんです。私が話して、みんな頷いて、それで終わり。本当にそれでいいと思っているのか、わかりません」

京都・四条烏丸のあるIT企業の部長が、困った顔でそう言いました。チームの業績は悪くない。しかし、新しいアイデアが出てこない。問題が起きても報告が遅い。「何か意見はないか」と聞いても、「特にないです」としか返ってこない。部長自身は「何でも言ってくれ」と思っているのに、チームは黙ったまま。

こうした状況の原因として注目されているのが、「心理的安全性」の欠如です。

心理的安全性(Psychological Safety)とは、「このチームでは、自分の意見を言っても、質問をしても、ミスを認めても、否定されたり罰せられたりしない」と感じられる状態のこと。ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、Googleの研究プロジェクト「Project Aristotle」でも、チームの生産性を最も左右する要因として心理的安全性が挙げられたことで、広く知られるようになりました。

しかし、「心理的安全性が大事」とわかっていても、「具体的に何をすればいいのか」がわからない——そう感じている方は多いのではないでしょうか。

私は関西の企業で組織開発に関わる中で、心理的安全性の構築に取り組んできました。その経験をもとに、具体的な方法をお伝えします。


心理的安全性がない職場で何が起きるか

心理的安全性が低い職場では、以下のような現象が起きます。

現象① 「沈黙の文化」

会議で意見が出ない。質問が出ない。「言っても無駄」「言ったら損する」と感じるため、黙っている方が安全だと判断する。結果として、会議は形骸化し、上司の独演会になる。

現象② 「問題の隠蔽」

ミスや問題を報告すると叱られる——そう感じる組織では、問題が隠蔽されます。小さな問題が放置され、大きな問題に発展してから初めて表面化する。「なぜもっと早く言わなかったんだ」と上司は怒るが、「早く言ったら怒られるから」言えなかった——悪循環です。

現象③ 「挑戦の回避」

新しいことに挑戦して失敗したら、「あいつは使えない」と評価される。そう感じる環境では、誰も挑戦しなくなります。「無難にこなす」「前例通りにやる」が最善の戦略になり、イノベーションは生まれません。

現象④ 「離職率の上昇」

「自分の意見が聞いてもらえない」「ミスをしたら居場所がなくなる」——心理的安全性の低い職場では、優秀な人材ほど「この環境では力を発揮できない」と判断し、離職していきます。

大阪のあるメーカー(従業員80名)では、品質問題が半年間隠蔽されていたことが発覚し、大きなクレームにつながりました。調査の結果、現場の社員は問題に気づいていたが、「上に報告すると怒られる」と思い、言い出せなかった。この一件をきっかけに、同社は心理的安全性の構築に本格的に取り組むことになりました。


心理的安全性をつくる「4つのアプローチ」

アプローチ① リーダーの「反応」を変える

心理的安全性の構築で最も重要なのは、リーダー(上司・管理職)の日常的な「反応」です。

部下が意見を言ったとき、どう反応するか。ミスを報告したとき、どう反応するか。質問をしたとき、どう反応するか。リーダーの反応一つで、部下の「次も言おう」「もう言わない」が決まります。

心理的安全性を高めるリーダーの反応:

  • 部下が意見を言ったとき → 「ありがとう、それは考えていなかった視点だ」(まず受け止める)
  • 部下がミスを報告したとき → 「報告してくれてありがとう。どうしたら防げるか一緒に考えよう」(責めない)
  • 部下が質問したとき → 「良い質問だね。みんなも同じ疑問を持っているかもしれない」(質問を歓迎する)

逆に、心理的安全性を壊すリーダーの反応:

  • 「そんなこともわからないの?」(質問を否定)
  • 「だから言ったじゃないか」(ミスを責める)
  • 「そんな意見は的外れだ」(意見を即座に否定)

神戸のあるIT企業(従業員40名)では、管理職向けに「反応トレーニング」を導入しました。ロールプレイ形式で、部下からのさまざまな発言に対する「良い反応」と「悪い反応」を練習します。「最初は意識しないとできなかったが、3ヶ月も続けると自然にできるようになった」と、ある管理職は話しています。

アプローチ② 「失敗」に対する組織の姿勢を変える

心理的安全性の高い組織は、「失敗を罰する」のではなく、「失敗から学ぶ」文化を持っています。

具体的な施策:

  • 「失敗共有会」の開催:月1回、自分の失敗とそこから学んだことを共有する場を設ける。リーダー自身が率先して失敗を共有することが重要
  • 「Good Fail Award」:良い挑戦の結果としての失敗を表彰する制度
  • 「ミスレポート」の仕組み:ミスの報告を「問題報告」ではなく「改善の機会」として扱う

大阪のあるSaaS企業(従業員50名)では、月1回の「しくじり先生」というイベントを開催しています。社長から新入社員まで、全員が交代で自分の「しくじり(失敗)」をプレゼンする。「社長の失敗談を聞いて、自分も正直に話せるようになった」——参加者からはこうした声が上がっています。

アプローチ③ 「対話の場」を仕組みとして作る

心理的安全性は「自然に生まれる」ものではなく、「意図的に作る」ものです。対話の場を仕組みとして設計します。

具体的な施策:

  • 1on1ミーティング:上司と部下が定期的(週1回〜月2回)に対話する場。業務の進捗だけでなく、「最近困っていること」「気になっていること」を話す時間
  • チェックイン:会議の冒頭5分で、全員が「今の気持ち」を一言ずつ共有する。「最近嬉しかったこと」「今日のコンディション」など、軽いテーマでOK
  • ブレインストーミングの定期開催:「否定禁止」のルールで自由にアイデアを出す場
  • ランチシャッフル:部署を横断してランダムにランチを一緒に取る仕組み

京都のある製造業(従業員70名)では、毎朝の朝礼に「チェックイン」を導入しました。全員が「今日の気分を天気で表現する」——「晴れです」「ちょっと曇りです」。たった1分のことですが、「お互いの状態を知る」ことが、声をかけ合う文化の土台になっています。

アプローチ④ 「ルール」で安全性を担保する

心理的安全性は、個人の善意だけに頼るのではなく、「ルール」で担保することも重要です。

  • 会議では「否定から入らない」ルールを設ける(「いいね、それに加えて…」)
  • 意見と人格を分ける(「その意見には反対だが、あなたを否定しているわけではない」)
  • 上の立場の人が先に発言しない(部下が発言しやすくするため)
  • 匿名で意見を出せる仕組みを用意する(アンケート、意見箱など)

心理的安全性と「ぬるま湯」の違い

心理的安全性について語るとき、よくある誤解があります。「心理的安全性=みんなに優しくする=厳しいことを言わない」——これは誤りです。

心理的安全性の高い組織は、「なあなあ」の組織ではありません。むしろ、「率直に言い合えるからこそ、厳しいフィードバックもできる」組織です。問題があれば指摘する。改善が必要なら伝える。ただし、それが「人格攻撃」ではなく「行動への建設的なフィードバック」であること。この違いが重要です。

心理的安全性とは、「何を言っても許される」ということではなく、「率直に意見を言っても、人間関係が壊れない」という信頼関係のことです。

大阪のある商社(従業員65名)の営業部長はこう言います。「うちの部署は心理的安全性が高いと思う。なぜなら、会議で激しく意見が対立しても、終わったら『飯行こか』と言える関係だから。意見を戦わせることと、人を攻撃することは全然違う」。


関西の企業文化と心理的安全性

「本音で話す」関西の強み

関西の企業文化には、「本音で話す」「遠慮なく言う」という面があります。東京の企業と比べて、「言いたいことを言う」文化が根付いているケースが多い。これは、心理的安全性の構築においてアドバンテージになります。

ただし、「言いたいことを言う」ことと「相手を傷つけてもかまわない」は違います。関西の「ストレートな物言い」を「建設的なフィードバック」に昇華させることが大切です。

「笑い」でほぐす文化

大阪の企業文化には「笑い」があります。「ちょっとボケて」「ツッコミを入れて」——こうしたユーモアは、場の緊張をほぐし、心理的安全性を高める効果があります。会議の冒頭にリーダーが「ちょっとした笑い話」を入れることで、場が和み、発言のハードルが下がる。これは関西の企業ならではの強みです。

「上下関係」が残る組織への対応

一方で、関西の製造業を中心に「年功序列」「上意下達」の文化が根強い企業もあります。こうした組織では、心理的安全性の構築に時間がかかります。まずは「1on1」のような小さな対話の場から始め、段階的に「言い合える文化」を育てていくアプローチが現実的です。


心理的安全性の「測定」

心理的安全性は、以下の質問で測定できます(エドモンドソンの7項目のフレームワークを参考)。

社員に対するアンケートの質問例:

  1. このチームでミスをしたとき、非難されることはない
  2. このチームのメンバーは、難しい問題を提起できる
  3. このチームの人々は、「違う」ことを理由に排除されることはない
  4. このチームでは、安心してリスクを取れる
  5. このチームのメンバーに助けを求めることは容易だ
  6. このチームの誰かが、意図的に私の努力を妨害することはない
  7. このチームのメンバーと仕事をするとき、私のスキルや才能は評価され活用されている

5段階評価で回答してもらい、平均スコアの推移を追跡することで、心理的安全性の変化を把握できます。

半年〜1年ごとに測定し、施策の効果を確認しながら改善を続けることが大切です。

関西の企業が、心理的安全性のある職場を作り、一人ひとりが安心して意見を言い、挑戦し、成長できる環境を実現すること。それは、社員の幸福だけでなく、組織のイノベーションと競争力に直結する投資です。


まとめ:心理的安全性のある職場づくりチェックリスト

  • [ ] 管理職の「反応」を見直し、意見を受け止める姿勢を育てているか
  • [ ] 失敗を「罰する」のではなく「学ぶ」文化を醸成しているか
  • [ ] 1on1やチェックインなど、対話の場を仕組みとして設けているか
  • [ ] 会議で「否定から入らない」ルールを設定しているか
  • [ ] 上の立場の人が先に発言しない配慮をしているか
  • [ ] 心理的安全性と「ぬるま湯」の違いをチームで共有しているか
  • [ ] 匿名で意見を出せる仕組み(アンケート、意見箱など)があるか
  • [ ] 心理的安全性を定期的に測定(アンケートなど)しているか
  • [ ] 管理職向けの「反応トレーニング」や研修を実施しているか
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