
関西の企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法
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関西の企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法
「評価シートが10ページもあるんです。毎回の評価時期になると、管理職も社員もうんざりしています。でも、長年使ってきた制度だから変えられなくて」
大阪・本町にある専門商社の人事課長が、苦笑いしながらそう話してくれました。従業員120名の中堅企業で、人事部門は3名体制。評価制度、等級制度、報酬制度——すべてが「過去の積み上げ」でつくられており、制度の全体像を把握している人が社内にいない状態でした。
この状況は、関西の中小企業では珍しくありません。人事制度は一度つくると、時間の経過とともに項目が増え、例外規定が加わり、運用ルールが複雑化していきます。「改善」を重ねた結果、制度が肥大化し、運用負荷が膨らんでいく。しかし、「制度を変える」こと自体が大仕事になるため、手をつけられずにいる企業が多いのです。
私は関西の企業で人事に関わる中で、人事制度は「足し算」よりも「引き算」が大切だと感じています。制度をスリム化することで、運用負荷を下げ、人事部門が本来取り組むべき戦略的な業務に時間を使えるようになります。その具体的な方法をお伝えします。
なぜ人事制度は「肥大化」するのか
原因① 「問題対応」で項目が追加される
人事制度が肥大化する最大の原因は、「問題が起きるたびにルールを追加する」ことです。ある社員が制度の隙間をついた行動をとると、「次は起きないように」とルールを追加する。例外的な事案に対処するために特別規定をつくる。これを繰り返すうちに、制度はどんどん複雑になっていきます。
神戸のあるメーカー(従業員200名)では、就業規則の付属規程だけで20本以上ありました。そのうち半数は、過去の個別事案への対応としてつくられたもので、現在はほとんど適用されることのないルールでした。
原因② 「他社事例」を参考に機能を追加する
「あの会社が360度評価を導入した」「この会社がコンピテンシー評価を取り入れた」——他社の事例を参考に、既存の制度に新しい機能を追加していくケースも多い。しかし、追加した機能が自社の実態に合わなかったり、運用する側の能力を超えていたりすることがあります。
大阪のある卸売業では、コンピテンシー評価、目標管理、360度フィードバック、行動評価——4つの評価手法を併用していました。「全部やろうとして、全部が中途半端になっている。評価シートの記入だけで、管理職は1人あたり2時間以上かかる」と人事部長は話します。
原因③ 「一度つくったもの」を廃止できない
「この制度は○○部長が苦労してつくったものだから、廃止すると角が立つ」「長年使ってきたものだから、なくすのは不安」——制度を廃止することへの心理的なハードルが、肥大化を助長します。
制度を「つくる」のは前向きな行為として評価されますが、「やめる」のは後ろ向きに見えることがある。しかし、使われていない制度を維持し続けることは、組織のリソースを浪費しているのと同じです。
人事制度のスリム化で得られる効果
効果① 管理職の負荷が下がる
人事制度の運用負荷の多くは、管理職が負担しています。評価シートの記入、面談の実施、目標管理の進捗確認——こうした作業が複雑であればあるほど、管理職の本来業務を圧迫します。
制度をスリム化すれば、管理職が「制度の運用」に費やす時間が減り、「部下の育成」や「チームの成果」に集中できるようになります。これは、人事制度が本来目指すべき方向です。
効果② 社員の理解度が上がる
複雑な制度は、社員にとってもわかりにくいものです。「自分がどう評価されているのかわからない」「等級が上がる条件がわからない」——制度が複雑であるほど、社員の納得感は下がります。
スリム化によって制度がシンプルになれば、社員が「自分に何が求められているか」を理解しやすくなり、制度への納得感が高まります。
効果③ 人事部門が戦略業務に時間を使える
制度の運用に追われている人事部門は、戦略的な業務に時間を使えません。評価シートの回収、データの集計、制度に関する問い合わせ対応——こうした作業に忙殺されている人事部門は、「制度の管理者」にはなれても、「事業のパートナー」にはなれない。
スリム化で運用負荷を下げることで、人事部門が採用戦略、育成計画、組織設計といった戦略業務に取り組む余力が生まれます。
効果④ 制度の実効性が上がる
複雑な制度は、形骸化しやすい。運用が面倒になると、管理職は「やっつけ仕事」で制度を回すようになり、評価の質が下がります。シンプルな制度のほうが、丁寧に運用され、実際に機能する可能性が高いのです。
人事制度スリム化の進め方
ステップ① 現状の「制度棚卸し」を行う
まず、自社の人事制度の全体像を棚卸しします。具体的には、以下を一覧にまとめます。
棚卸しの項目:
- 制度名(評価制度、等級制度、報酬制度、福利厚生、就業規則付属規程など)
- 制度の目的(何のためにこの制度があるのか)
- 運用頻度(年1回、半期ごと、毎月など)
- 運用にかかる工数(誰が、何時間かけているか)
- 制度の利用実績(実際にどの程度使われているか)
- 制度の満足度(管理職・社員はどう思っているか)
京都のあるIT企業(従業員80名)では、この棚卸しを行った結果、「存在は知っているが、誰も使っていない制度」が5つも見つかりました。自己啓発支援制度、社内公募制度、メンター制度——いずれも、導入時には鳴り物入りで始まったものの、運用が形骸化して実質的に機能していなかったのです。
ステップ② 「やめる」「簡素化する」「維持する」に仕分ける
棚卸しの結果をもとに、各制度を3つに仕分けます。
「やめる」——制度自体を廃止する:
- 利用実績がほとんどない制度
- 制度の目的が不明確になっている制度
- 運用コストに見合う効果が得られていない制度
「簡素化する」——制度は残すが、運用を簡素化する:
- 評価項目の削減
- 評価シートのフォーマット簡素化
- 承認プロセスの簡略化
- 例外規定の整理・統合
「維持する」——現状のまま継続する:
- 法的要件を満たすために必要な制度
- 経営戦略と直結している制度
- 社員の満足度が高く、実際に機能している制度
大阪のある専門商社では、この仕分けを行った結果、15の人事関連制度のうち3つを廃止し、5つを簡素化しました。廃止したのは「社内表彰制度(年に1回、2名しか表彰されず形骸化)」「自己申告制度(提出はされるが活用されていなかった)」「社内提案制度(過去3年間で提案ゼロ)」の3つ。
ステップ③ 評価制度のスリム化——最も効果が大きい領域
人事制度の中で最も運用負荷が高いのは、多くの場合「評価制度」です。評価制度のスリム化が、全体の運用負荷軽減に最も効果があります。
評価項目の削減: 多くの企業の評価シートは、項目が多すぎます。10項目、15項目、あるいはそれ以上。しかし、評価項目が多いほど、各項目の評価が「なんとなく」になりやすい。
「本当に重要な項目」に絞ることが、スリム化の基本です。評価項目は5〜7項目が適切です。「この項目がなくなったら、評価に支障が出るか?」という問いに「NO」と答えられる項目は、削除の候補です。
神戸のあるサービス業(従業員150名)では、評価項目を12項目から6項目に半減しました。「半分にしても、評価結果はほとんど変わらなかった。むしろ、重要な項目に集中して評価できるようになり、評価の質が上がった」と人事マネージャーは話します。
評価シートの簡素化: 評価シートのフォーマット自体も見直します。「記述欄が多すぎる」「同じようなことを何度も書かされる」——管理職からよく聞く不満です。
具体的な簡素化のポイント:
- 記述欄は「特記事項」のみに絞る
- 定量評価と定性評価を分ける(定量は数値のみ、定性は簡潔なコメント)
- 評価シートを1〜2ページに収める
- 過去の評価をコピーして使える仕組みにする
ステップ④ 等級制度のスリム化
等級が細かすぎると、昇格基準が複雑になり、運用が煩雑になります。「一般職1級、2級、3級、主任、係長、課長補佐、課長、次長、部長補佐、部長」——10段階の等級がある企業も珍しくありません。
しかし、実態として「主任と係長の違い」「課長補佐と課長の違い」を明確に説明できる企業は少ない。等級間の違いが曖昧であれば、等級を統合して段階を減らすことが可能です。
大阪のある製造業(従業員180名)では、10段階の等級を6段階に統合しました。「等級が減ったことで、昇格基準がわかりやすくなった。社員からも『自分が次のステップに上がるために何が必要かが、初めてわかった』という声が出た」と人事部長は話します。
ステップ⑤ 承認プロセスの簡素化
人事関連の申請——休暇申請、出張申請、研修参加申請、人事異動の起案——こうした申請の承認プロセスが多段階になっていないかを確認します。
「直属上司→部長→管理部→人事部→役員」のように5段階の承認が必要な企業がありますが、すべての申請に5段階の承認が必要なのかは疑問です。申請内容の重要度に応じて、承認段階を変える仕組みにすることで、運用負荷を下げられます。
スリム化を進める上での注意点
注意点① 「なくすこと」への不安に対処する
制度を廃止したり簡素化したりすることに対して、「不安」を感じる社員や管理職は必ずいます。「この制度がなくなったら、○○ができなくなるのでは」「せっかくつくった制度なのにもったいない」——こうした声に丁寧に対応することが重要です。
対処法として、「なぜこの制度をやめるのか(スリム化するのか)」「その結果、何が変わるのか(何が変わらないのか)」を明確に説明します。特に「変わらないこと」を伝えることが、不安の解消につながります。
注意点② 段階的に進める
すべてを一度にスリム化しようとすると、混乱が生じます。「まず、この制度を廃止する」「次に、この制度を簡素化する」と段階を踏んで進めることが大切です。
京都のあるメーカーでは、スリム化を3年計画で進めました。1年目は「使われていない制度の廃止」、2年目は「評価制度の簡素化」、3年目は「等級制度の統合」。段階的に進めることで、社員の不安を最小限に抑えながら、着実にスリム化を実現しました。
注意点③ 法的要件は維持する
スリム化の対象は、あくまで「運用上の判断で変えられるもの」です。法律で定められている制度や手続き——就業規則の記載事項、36協定、安全衛生に関する規程など——は、当然ながら維持しなければなりません。
スリム化にあたっては、社労士や弁護士に相談し、法的要件を確認した上で進めることをお勧めします。
注意点④ 「簡素化」と「手抜き」は違う
制度をスリム化することは、人事の仕事を「手抜き」することではありません。不要なものをなくし、本当に必要なものに集中することです。スリム化の結果、人事部門が戦略的な業務に時間を使えるようになることが目的です。
この点を経営者にも管理職にも明確に伝えることが、スリム化への理解と協力を得る上で重要です。
スリム化後の「運用の質」を上げる
制度をスリム化したら、残った制度の「運用の質」を上げることが次のステップです。
方法① 運用マニュアルの整備
スリム化後の制度について、わかりやすい運用マニュアルを整備します。「誰が」「いつ」「何を」「どうするか」を明確に記載し、管理職や社員が迷わずに運用できるようにします。
マニュアルは「簡潔であること」が重要です。分厚いマニュアルは誰も読みません。A4で2〜3ページ、あるいはQ&A形式で、よくある質問に答える形式が有効です。
方法② 定期的な制度レビュー
スリム化は一度やって終わりではありません。年に1回、制度の運用状況をレビューし、「不要になった制度はないか」「さらに簡素化できる部分はないか」を検討します。
「毎年3月に制度レビューを行う」というように、スケジュールに組み込んでしまうことで、制度の肥大化を防ぎます。
方法③ 管理職へのサポート
制度がスリム化されても、管理職が正しく運用できなければ意味がありません。評価の仕方、面談の進め方、目標設定のコツ——制度の運用に必要なスキルを管理職が身につけられるよう、研修やサポートを提供します。
大阪のある商社では、評価制度をスリム化した後、管理職向けに「評価の書き方ワークショップ」を開催しました。「項目が減ったことで、一つひとつの評価を丁寧に書くようになった。ワークショップで他の管理職の評価の書き方を見て、自分の評価の偏りに気づいた」と参加者は話します。
関西の中小企業ならではのスリム化のポイント
関西の中小企業には、大企業とは異なるスリム化のポイントがあります。
ポイント① 「制度」よりも「対話」を重視する
中小企業では、複雑な制度よりも、経営者と社員の距離が近いという強みを活かした「対話」が効果的です。評価シートに何ページも書くよりも、上司と部下が30分の面談でしっかり対話するほうが、社員の成長につながることが多い。
制度をスリム化し、浮いた時間を「対話の時間」に充てるという発想が、中小企業にはフィットします。
ポイント② 自社の規模に合った制度にする
大企業向けのコンサルティング会社がつくった制度を、そのまま中小企業に導入するケースがあります。しかし、300人規模の制度を50人の会社で運用するのは無理があります。自社の規模と実態に合った、シンプルな制度をつくることが重要です。
ポイント③ 経営者の理解を得る
中小企業では、人事制度の変更には経営者の理解が不可欠です。「なぜスリム化が必要なのか」「スリム化によって経営にどんなメリットがあるのか」を、経営の言葉——つまり、生産性、コスト、業績への影響——で説明することが、経営者の理解を得る鍵です。
まとめ:制度は「使われてこそ」意味がある
人事制度の目的は、「制度があること」ではなく、「制度が機能すること」です。複雑で使いにくい制度は、たとえ設計が優れていても、運用の現場で機能しません。
スリム化は、制度の「質」を下げることではなく、制度の「実効性」を上げることです。不要なものをなくし、本当に重要なものに集中する。関西の中小企業だからこそ、フットワーク軽く制度を見直し、自社に合ったシンプルな制度を運用していく。それが、人事部門の運用負荷を下げ、組織全体の生産性を高める道です。
制度は「つくること」がゴールではありません。「使われること」がゴールです。スリム化を通じて、本当に使われる制度をつくっていただきたいと思います。
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