
関西の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤
目次
関西の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤
この記事は、関西の人事メディアとして100本目の記事です。
1本目の記事を書き始めたとき、私は「関西の企業の人事に、何か少しでも役に立つ情報を届けたい」という思いでいました。大阪、京都、神戸——関西のさまざまな企業の人事担当者と対話を重ね、現場の課題に向き合い、一つひとつの記事を書いてきました。
100本目となる本稿では、これまでの記事を通じて見えてきた「これからの人事」の方向性を、羅針盤として整理します。関西の企業の人事担当者が、自社の人事のあり方を考える際の参考になれば幸いです。
これまでの100本で見えてきたこと
100本の記事を書く中で、関西の企業の人事担当者から数多くの声を聞いてきました。その声の中に、共通するテーマがありました。
「人が足りない、でも良い人が来ない」
関西の中小企業が最も切実に感じている課題は、人材の確保です。少子化に伴う労働力人口の減少は、大企業よりも中小企業に深刻な影響を与えています。採用の競争激化、若手の早期離職、ベテランの退職による技術・ノウハウの喪失——人材不足は、事業の継続そのものを脅かす課題です。
「制度はつくったが、機能していない」
評価制度、等級制度、研修制度——制度は整備した。しかし、それが現場で機能しているかというと、形骸化しているケースが多い。制度をつくることと、制度を活かすことは別の問題です。
「経営と人事の距離が遠い」
人事の仕事が「管理業務」として位置づけられ、経営の意思決定に人事の視点が反映されていない。経営会議に人事が参加していない。事業計画と人員計画が連動していない。
「人事担当者自身が孤独」
関西の中小企業の人事担当者は、少人数で広範な業務をカバーしている。相談できる相手がいない。社内では「人事は何をやっているかわからない」と言われ、社外では同じ立場の仲間がいない。
これらの課題は、個別の「施策」で解決できるものではありません。人事のあり方そのものを見つめ直し、「これからの人事」の方向性を定めることが必要です。
羅針盤その一:人事を「経営の機能」として位置づけ直す
これからの人事が最も重要視すべきことは、人事を「管理部門の一機能」から「経営の中核機能」へと位置づけ直すことです。
人事は、採用、評価、給与、労務——これらの「管理業務」を担う部門として認識されがちです。しかし、事業の成否を分けるのは「人」です。どんな事業戦略も、それを実行する「人」がいなければ絵に描いた餅です。だからこそ、人事は経営の中核機能であるべきです。
経営戦略と人事戦略の連動
事業計画を策定する段階から、人事の視点を組み込む。「来期は新規事業を立ち上げる」という経営判断には、「どんな人材が必要か」「その人材をどう確保するか」「既存の組織体制で対応できるか」という人事の論点が不可分です。
経営会議に人事が参加し、事業の方向性と人材の方向性を一体で議論する。この「経営と人事の接続」が、これからの人事の出発点です。
経営数字で語る人事
人事の取り組みを、経営数字と接続して語る力が求められます。「エンゲージメント向上の取り組みを行っています」ではなく、「エンゲージメントスコアが10ポイント向上した結果、離職率が3ポイント低下し、年間の採用コストが800万円削減されました」——数字で語ることで、経営層は人事の取り組みの価値を理解できます。
人事担当者が「経営の言葉」で語れるようになること。それは、人事の地位を高めるためではなく、人事の取り組みを経営の意思決定に反映してもらうための手段です。
羅針盤その二:「制度」より「運用」を重視する
これまでの記事の中で、繰り返し強調してきたことがあります。人事制度は「つくること」よりも「運用すること」が圧倒的に重要だということです。
完璧な制度よりも、運用される制度
100点の制度を設計して運用されないよりも、70点の制度を設計して丁寧に運用する方が、組織にとっての価値は高い。中小企業の人事担当者は、制度設計に完璧を求めるあまり、導入が遅れたり、導入後の運用に手が回らなくなったりするケースが多い。
大切なのは、「まず始めて、改善し続ける」姿勢です。小さく始めて、現場の反応を見ながら調整していく。この「改善のサイクル」を回し続けることが、制度を生きた仕組みにする鍵です。
管理職の「運用力」が制度の成否を決める
人事制度の運用は、最終的には管理職の手に委ねられます。評価面談を行うのは管理職。1on1ミーティングを実施するのは管理職。部下の育成を担うのも管理職。管理職の運用力を高めることに、人事は最も注力すべきです。
管理職向けの研修、管理職同士のピアラーニング、管理職へのフィードバック——管理職を支援することが、人事制度全体の運用品質を高めます。
羅針盤その三:「人を大切にする」と「事業で成果を出す」を両立させる
人事の世界には、「人を大切にすることと、事業で成果を出すことは矛盾する」という暗黙の前提が存在することがあります。「社員に優しくすると甘くなる」「働きやすさを追求すると生産性が下がる」——こうした二項対立の発想です。
しかし、私はこの100本の記事を書く中で、両者は矛盾しないと確信するようになりました。
社員が安心して働ける環境をつくることは、離職率を下げ、採用コストを削減し、組織の知見の蓄積を可能にする。社員の成長に投資することは、一人あたりの生産性を高め、事業の競争力を強化する。社員の声を聴き、組織風土を改善することは、イノベーションの土壌をつくる。
「人を大切にする」ことは、「コスト」ではなく「投資」です。そして、その投資は事業の成果として返ってくる。この循環をつくることが、これからの人事の本質的な役割です。
ただし、ここで一つ重要な注意点があります。「人にとって良いことだから」という理由だけで人事施策を推進しても、経営層の支持は得られません。「人にとって良い、そして事業にとっても良い」——この両面を常に意識し、経営数字との接続を怠らないこと。それが、人事が経営のパートナーとして信頼を得るための条件です。
羅針盤その四:関西の「強み」を人事の武器にする
100本の記事を通じて、関西の企業の人事には固有の強みがあることが見えてきました。
経営者と社員の距離の近さ
関西の中小企業では、経営者が社員一人ひとりの顔を知っている。この距離の近さは、大企業にはない強みです。経営者の想いが直接社員に届き、社員の声が直接経営者に届く。HRテクノロジーで実現しようとしていることを、関西の中小企業では人と人の関係性の中で自然に実現できている。
この強みを意識的に活かす。経営者と若手社員の対話の場を定期的に設ける。経営者自らが育成に関与する。経営者の言葉で会社のビジョンを語る。
「現場主義」の文化
関西の企業には、「現場を見ろ」「現場で考えろ」という文化が根づいています。この現場主義は、人事においても重要です。人事担当者が自席にこもってデータを分析するだけではなく、現場に出向き、社員の声を直接聞き、現場の実態を自分の目で確認する。
現場を知っている人事は、現場にフィットする制度をつくれます。現場を知らない人事は、きれいな制度をつくっても現場では使えない。
「商売人」のDNA
関西の企業には、「商売は信用が第一」「損して得取れ」「三方よし」——商売人の知恵が息づいています。この知恵は、人事にも適用できます。
「信用が第一」は、社員との信頼関係が人事の基盤であることを教えてくれます。約束したことは守る。制度を透明にする。公正に評価する——信頼なくして、どんな人事施策も機能しません。
「損して得取れ」は、人への投資の本質を表しています。短期的にはコストに見えても、長期的にはリターンが得られる。育成への投資、エンゲージメント向上への投資、採用ブランディングへの投資——いずれも、すぐには成果が見えないが、中長期で事業の力になる。
「三方よし」は、人事施策の設計原則になります。社員にとって良く(満足度・成長)、会社にとって良く(業績・生産性)、社会にとって良い(地域貢献・雇用創出)——三方よしの人事施策は、持続可能な仕組みになります。
羅針盤その五:人事担当者自身が「学び続ける」
これからの人事は、過去の延長線上にはありません。テクノロジーの進化、働き方の多様化、価値観の変化、労働法制の改正——人事を取り巻く環境は急速に変化しています。この変化に対応するためには、人事担当者自身が学び続ける必要があります。
社外のネットワークに参加する
関西の人事担当者は、社内では孤独になりがちです。同じ立場の仲間と出会い、知見を共有し、刺激を受ける場が必要です。人事の勉強会、異業種交流会、人事コミュニティ——社外のネットワークに参加することで、自社の人事を客観的に見つめ直すことができます。
「他社の事例」を参考にしつつ、「自社の答え」をつくる
他社の成功事例を知ることは有益です。しかし、他社の施策をそのまま自社に適用しても、うまくいくとは限りません。自社の事業特性、組織の文化、社員の特性を踏まえて、「自社なりの答え」をつくっていく。その力を身につけることが、人事担当者の成長です。
「経営」を学ぶ
人事を経営の中核機能として機能させるためには、人事担当者自身が経営を理解する必要があります。財務諸表の読み方、事業戦略の基本、マーケティングの考え方——人事の専門知識だけでなく、経営全般の知識を身につけることが、経営との対話力を高めます。
羅針盤その六:「手段ありき」ではなく「目的から考える」
人事の世界には、「手段ありき」の落とし穴があります。「ジョブ型を導入しよう」「1on1を始めよう」「タレントマネジメントシステムを入れよう」——手段(ツールや施策)から入ると、本来の目的を見失います。
大切なのは、常に「目的」から考えること。「自社が解決すべき課題は何か」「その課題を解決するために、何をすべきか」——目的を明確にした上で、最適な手段を選ぶ。手段は状況に応じて変わりますが、目的は揺るぎません。
「ジョブ型にすれば問題が解決する」のではなく、「どんな組織をつくりたいのか」が先にある。「1on1を始めれば部下育成が進む」のではなく、「管理職と部下の関係性をどう変えたいのか」が先にある。
手段は手段にすぎません。目的を見据え、自社に合った手段を選び、丁寧に運用する。これが、人事の施策を成功させる基本的な考え方です。
羅針盤その七:「正解」を求めず、「問い」を持ち続ける
最後にお伝えしたいのは、人事に「唯一の正解」は存在しないということです。
業種も、規模も、歴史も、文化も異なる企業に、共通の正解があるはずがない。「この制度を入れれば大丈夫」「このやり方が正解」——そう言い切れるほど、人事は単純ではありません。
大切なのは、「正解」を求めることではなく、「問い」を持ち続けることです。
「自社にとって最適な評価制度とは何か」「社員が成長できる環境をどうつくるか」「経営と人事をどう接続するか」「組織の風土をどう変えていくか」——これらの問いに対する答えは、時代の変化、事業の状況、組織の成熟度によって変わります。
だからこそ、問いを持ち続け、考え続け、試し続ける。うまくいかなければ修正し、また試す。この試行錯誤の積み重ねが、自社にとっての「良い人事」を形づくっていきます。
100本の先へ
この100本の記事は、「これが正解です」と示すものではありません。関西の企業の人事担当者が、自社の課題に向き合い、自分なりの答えを見つけていくための「素材」として活用していただければ嬉しく思います。
関西の中小企業の人事は、孤独な仕事です。一人で、あるいは少人数で、広範な業務をカバーしなければならない。相談できる相手がいない。自分のやっていることが正しいのかどうか、確信が持てない。
しかし、同じ悩みを抱えている人事担当者は、関西中にいます。大阪にも、京都にも、神戸にも。一人で抱え込まず、仲間とつながり、学び合い、支え合う。その関係性の中から、自社の人事を前に進めるヒントが見つかるはずです。
100本の記事を通じて、関西の人事の「いま」を見つめてきました。これからの関西の人事がどこへ向かうのか——その答えをつくるのは、現場で日々奮闘している人事担当者の皆さん自身です。
この記事が、あなたの人事の「羅針盤」の一部になれば、これ以上の喜びはありません。
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