関西の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方
評価・等級制度

関西の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方

#採用#評価#研修#組織開発#経営参画

関西の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方

「うちの等級制度、もう10年以上変えていないんですが、実態と合っていない気がするんです」

大阪・堺筋本町にある電子部品メーカーの人事課長が、そう切り出しました。従業員120名の中堅企業で、等級は7段階。入社すると1等級からスタートし、年功的に昇格していく仕組みです。

問題は、等級と実態の乖離が広がっていること。5等級(課長級)のポジションに、明らかに5等級の能力・役割を果たしていない社員がいる。一方で、3等級の若手社員が、実質的に課長級の仕事をこなしている。「等級が上の人が偉い」という建前と、「実際に仕事をしている人は違う」という実態のギャップが、社員の不満を生んでいました。

等級制度は、人事制度の「背骨」です。評価制度や報酬制度は等級制度の上に成り立っているため、等級制度が機能していなければ、評価も報酬も適切に機能しません。

しかし、等級制度の再設計は「人事制度改革の中で最も難易度が高いテーマ」でもあります。全社員に影響があり、報酬や処遇の変更を伴い、社員の感情にも触れる。だからこそ、慎重に、しかし正しく進める必要があります。

私は関西の企業で等級制度の再設計に関わってきましたが、その経験をもとに、再設計の考え方と進め方をお伝えします。


等級制度の3つの類型

等級制度は大きく3つの類型に分かれます。まず、それぞれの特徴を理解することが出発点です。

職能資格制度(能力等級)

社員の「能力」を基準に等級を決める制度。「どんな能力を持っているか」で処遇が決まります。日本企業で最も普及している制度で、関西の中小企業でも多く採用されています。

メリット:社員の成長を長期的に支援できる。柔軟な配置転換が可能。 デメリット:能力の評価が主観的になりやすい。年功的な運用に陥りやすい。「能力はあるが成果を出していない」社員も等級が上がる。

職務等級制度(ジョブ等級)

「職務(仕事の内容と責任)」を基準に等級を決める制度。「どんな仕事をしているか」で処遇が決まります。いわゆる「ジョブ型」の等級制度です。

メリット:「何をすれば等級が上がるか」が明確。仕事の価値に見合った処遇が実現する。 デメリット:仕事の範囲が固定化されやすい。中小企業の「一人何役」には合いにくい。職務の定義と維持に手間がかかる。

役割等級制度(ミッション等級)

「役割(組織内で期待される役割と成果責任)」を基準に等級を決める制度。「どんな役割を果たしているか」で処遇が決まります。職能資格制度と職務等級制度の良い部分を取り入れた、中間的な制度です。

メリット:「能力」と「成果」の両面を評価できる。中小企業の柔軟な役割分担にも対応しやすい。 デメリット:役割の定義があいまいになると、結局年功的になりやすい。


関西の中小企業に合った等級制度は

私が関西の中小企業にお勧めしているのは、「役割等級制度」をベースとした設計です。理由は以下の通りです。

理由①:中小企業では「一人何役」が現実であり、職務等級のように仕事を固定化する制度は運用が難しい 理由②:職能資格制度は年功的な運用に陥りやすく、「能力はあるが成果を出していない」社員の処遇問題が発生する 理由③:役割等級制度は、「今、何を期待されているか」で処遇が決まるため、実態と等級の乖離が起きにくい


等級制度を再設計する6つのステップ

ステップ① 現状の課題を明確にする

再設計の出発点は、「現在の等級制度の何が問題なのか」を明確にすることです。

よくある課題:

  • 等級と実態の乖離(等級が高い人が必ずしも高いパフォーマンスではない)
  • 等級数が多すぎて、各等級の違いが不明確
  • 年功的な運用により、等級が自動昇格している
  • 管理職と専門職のキャリアパスが一本道
  • 中途採用者の等級格付けに困っている

大阪のある物流会社(従業員90名)では、「等級が7段階あるが、3等級と4等級の違い、4等級と5等級の違いが誰にも説明できない」という状態でした。等級の定義が曖昧であるため、昇格の基準も曖昧になり、「なぜあの人が昇格してこの人が昇格しないのか」という不満が蓄積していました。

ステップ② 等級の数を決める

等級の数は、「多すぎず、少なすぎず」が原則です。等級数が多すぎると各等級の違いが不明確になり、少なすぎると社員のキャリアステップが乏しく感じられます。

目安:

  • 従業員50名以下:3〜4等級
  • 従業員50〜100名:4〜5等級
  • 従業員100〜300名:5〜6等級

等級を減らす場合、現在の7等級を5等級に減らすイメージです。等級を減らす際には、各等級の報酬レンジに幅を持たせることで、「等級が同じでも、成果に応じて報酬に差がつく」仕組みにします。

ステップ③ 各等級の「定義」を明確にする

各等級に求められる「役割」「スキル」「影響力の範囲」を具体的に定義します。この定義が、等級制度の核心です。

定義の例(5等級制の場合):

等級1(スタッフ): 役割:上司の指導のもと、担当業務を遂行する スキル:基本的な業務スキルを習得し、一通りの業務ができる 影響力:自分自身の業務範囲

等級2(シニアスタッフ): 役割:一人で業務を完遂し、後輩の指導を行う スキル:担当領域の専門スキルを持ち、応用ができる 影響力:自分の業務+後輩への影響

等級3(リーダー): 役割:チームの業務を統括し、目標達成に責任を持つ スキル:複数の業務領域をカバーし、問題解決ができる 影響力:チーム全体への影響

等級4(マネージャー): 役割:部門の戦略を策定し、部門の成果に責任を持つ スキル:部門全体を俯瞰し、経営視点での判断ができる 影響力:部門全体+他部門との連携

等級5(ディレクター): 役割:全社的な戦略に参画し、事業の成長に責任を持つ スキル:経営的視点での意思決定、組織全体の方向づけ 影響力:全社への影響

各等級の定義は、「抽象的な能力」ではなく「具体的な行動と成果」で記述することが重要です。「リーダーシップがある」ではなく「チームの目標を設定し、メンバーの役割分担を行い、進捗を管理して、期限内に成果を出す」のように、行動レベルで記述します。

ステップ④ キャリアパスの設計

等級制度と合わせて、キャリアパスを設計します。「管理職ルート」だけでなく、「専門職ルート」を設けることで、管理職にならなくてもキャリアを発展させられる仕組みにします。

デュアルラダー(2つのキャリアルート)の例:

等級1〜2:共通(全員が同じルートでスキルを蓄積) 等級3以降: 管理職ルート:リーダー→マネージャー→ディレクター 専門職ルート:エキスパート→シニアエキスパート→フェロー

管理職ルートと専門職ルートの報酬レンジは同水準に設定します。「専門職ルートの方が報酬が低い」では、誰も専門職ルートを選ばなくなります。

ステップ⑤ 移行計画の策定

現行制度から新制度への移行は、最も慎重に進めるべき部分です。

移行の原則:

  • 現在の報酬を下回る社員が出ないよう、経過措置を設ける
  • 全社員の格付け(新等級への振り分け)を行い、シミュレーションする
  • 「等級が下がる」社員には個別に説明し、理解を得る
  • 移行期間は1〜2年を設定し、段階的に新制度に移行する

神戸のある精密機器メーカーでは、等級制度の移行にあたり、「現行等級よりも新等級が下がる社員」に対して、3年間の報酬保証(現行報酬を3年間維持)を設けました。この経過措置により、社員の不安を軽減し、スムーズな移行を実現しています。

ステップ⑥ 社員への説明と合意形成

等級制度の再設計は、全社員に影響する大きな変更です。「なぜ変えるのか」「どう変わるのか」「自分にどんな影響があるのか」を丁寧に説明し、社員の理解と合意を得ることが不可欠です。

説明のステップ:

  • 全社説明会:制度変更の趣旨、概要、スケジュールを説明
  • 部門別説明会:各部門の具体的な変更点を説明
  • 個別面談:一人ひとりの新等級と、今後のキャリアパスを説明
  • Q&A対応:質問や不安に対する回答の場を設ける

等級制度の再設計で陥りやすい失敗

失敗① 「完璧な制度」を目指しすぎる

等級制度に完璧はありません。すべての社員が完全に納得する制度は存在しません。80%の社員が「妥当だ」と感じる制度を目指し、残りの20%は運用の中で調整していくという現実的な姿勢が必要です。

失敗② 制度は変えたが運用が変わらない

制度の設計を変更しても、運用する人(管理職)の意識や行動が変わらなければ、新制度も旧制度と同じように形骸化します。管理職への研修や、運用ルールの明確化が不可欠です。

失敗③ 社員の感情を軽視する

等級は、社員のプライドやアイデンティティに関わるテーマです。「等級が下がる」ことは、客観的には合理的であっても、社員にとっては大きなショックです。感情面への配慮を怠ると、制度変更に対する強い反発を招きます。


関西の企業に合った等級制度のポイント

関西の中小企業が等級制度を再設計する際に、地域特性として考慮すべきポイントがあります。

シンプルさの重視

関西の経営者は、複雑な仕組みよりもシンプルでわかりやすい仕組みを好む傾向があります。等級制度も例外ではありません。「誰が見てもわかる」「説明しなくても理解できる」——こうしたシンプルさが、関西の中小企業に合った等級制度の特徴です。

「実力主義」と「人情」のバランス

関西の企業文化には、「実力で評価する」合理性と、「仲間を大事にする」人情の両面があります。等級制度の設計においても、成果に基づく合理的な等級判定と、長年の貢献を認める仕組みのバランスを取ることが重要です。

例えば、京都のある商社では、等級判定の基準は「役割と成果」をベースとしつつ、「会社への貢献年数」を一つの参考指標として加味しています。長年にわたり会社を支えてきた社員の存在を尊重しつつ、若手でも実力があれば等級が上がる仕組みです。

中途採用者の格付けルール

関西の中小企業では、中途採用者が増えています。中途採用者を新しい等級制度のどの等級に格付けするかのルールを事前に定めておくことが重要です。「前職の役職」で決めるのか、「入社後の試用期間中の評価」で決めるのか——ルールが曖昧だと、既存社員との間に不公平感が生まれます。

大阪のあるIT企業では、中途採用者は原則として「仮格付け」で入社し、6か月後の評価をもとに正式な等級を決定する仕組みを採用しています。「前職での実績と自社での実績は別物」という考え方に基づいた運用です。

等級制度の再設計は、人事制度改革の中で最もインパクトが大きく、最も慎重さが求められるテーマです。しかし、正しく設計された等級制度は、社員の成長を促し、組織の成果を高める強力な基盤になります。まずは現在の等級制度の課題を直視することから始めてみてください。


まとめ:等級制度再設計チェックリスト

  • [ ] 現在の等級制度の課題を具体的に特定したか
  • [ ] 自社の規模に適した等級数を設定したか
  • [ ] 各等級の定義を「具体的な行動と成果」で記述したか
  • [ ] 管理職ルートと専門職ルートのデュアルラダーを設計したか
  • [ ] 全社員の新等級への格付けシミュレーションを行ったか
  • [ ] 報酬が下がる社員への経過措置を設けたか
  • [ ] 社員への説明(全社、部門別、個別面談)を計画したか
  • [ ] 管理職への運用研修を実施したか
  • [ ] 評価制度・報酬制度との整合性を確認したか
  • [ ] 導入後の運用レビューと改善体制を整えたか
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