関西の中小企業が人事データ活用を始めるための第一歩
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関西の中小企業が人事データ活用を始めるための第一歩

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関西の中小企業が人事データ活用を始めるための第一歩

「データが大事なんはわかってるんですけど、何から始めたらええんかわかりません」

大阪・本町のある商社の人事担当者が、率直にそう話してくれました。「ピープルアナリティクス」「HR Tech」「データドリブンな人事」——こうした言葉は耳にするが、自社の現実を見ると、社員情報はExcelで管理し、勤怠データは紙のタイムカード、評価結果はファイルキャビネットの中——「データ活用」以前の段階にある。

関西の中小企業の多くが、同じ状況にあります。大企業が高額な人事システムを導入し、AIを活用した採用や離職予測を始めている一方で、中小企業は「そもそもデータが整備されていない」段階から始めなければならない。

しかし、だからといって「中小企業にはデータ活用は無理」と諦める必要はまったくありません。

私はこれまで500社以上の企業で人事に関わってきましたが、人事データの活用は「高額なシステム」や「高度な分析スキル」がなくても始められます。大切なのは、「経営に役立つデータ」を「経営に響く形」で整理し、意思決定に活かすこと。これはExcelでも十分にできることです。

この記事では、関西の中小企業が人事データ活用を始めるための第一歩について、一緒に考えてみたいと思います。


なぜ人事データの活用が必要なのか

「今まで勘と経験でやってきて、それなりにうまくいっている」——中小企業の経営者や人事担当者から、こうした声を聞くことがあります。確かに、少人数の組織では経営者の「目」が全員に行き届き、勘と経験で人事判断ができることも多い。

しかし、勘と経験には限界があります。

限界① 「見えていない問題」に気づけない

人は自分の認知のバイアスに気づきにくいものです。「うちは離職率が低い」と思っていても、データで確認すると特定の部署や年齢層で離職が集中していた——こうした「見えていない問題」は、データを見て初めて気づくことが多い。

大阪のある食品卸売業(従業員60名)では、社長が「うちは人が辞めない会社」と自負していました。しかし、過去3年間の離職データを整理してみると、入社3年以内の若手社員の離職率が40%に達していることが判明。「辞めない」のはベテランだけで、若手は高率で離職していた——この事実に、社長は大きな衝撃を受けていました。

限界② 「経営との対話」ができない

人事担当者が経営者に「人材の課題」を伝えるとき、データがなければ「感覚的な報告」にしかなりません。「最近、若手が辞めがちです」では、経営者は動きません。「入社3年以内の離職率が40%で、一人あたりの採用・教育コストが150万円として、年間の損失は約900万円です」——こう伝えれば、経営者は問題の深刻さを理解し、対策に投資する判断ができます。

限界③ 「施策の効果」がわからない

新しい研修を始めた、評価制度を変えた、働き方改革を進めた——しかし、「それで何が変わったのか」がわからなければ、施策の価値は判断できません。データを使って「施策の前後で何が変化したか」を測定することで、「効果があった施策」と「効果がなかった施策」を見極め、リソースの配分を最適化できます。


中小企業が最初に整備すべき「5つの基本データ」

人事データ活用の第一歩は、「基本データの整備」です。高度なデータ分析をする前に、まず「正確なデータが、すぐに取り出せる状態」を作ることが必要です。

最初に整備すべき5つの基本データを紹介します。

データ① 人員構成データ

「今、誰が、どの部署に、どんな役割で、いくらの報酬で働いているか」

これは最も基本的なデータですが、意外と正確に把握できていない企業が多い。特に、パート・アルバイトを含む全従業員のデータが一元的に管理されていないケースがあります。

まず、全従業員の「名前」「所属」「雇用形態」「入社年月日」「役職・等級」「年齢」「性別」——この基本情報をExcelの一覧表にまとめることから始めてください。

データ② 離職データ

「過去3年間で、誰が、いつ、どの部署から、どんな理由で退職したか」

離職データは、組織の健康状態を示す最も重要な指標の一つです。離職率の全社平均だけでなく、部署別、年齢層別、入社年次別、雇用形態別に分析することで、「どこで問題が起きているか」が見えてきます。

神戸のある機械部品メーカー(従業員80名)では、離職データを初めて体系的に整理したところ、特定の管理職の部下の離職率が突出して高いことが判明しました。「その管理職のマネジメントに問題がある」という仮説のもと、管理職研修と1on1の導入を行い、翌年にはその部署の離職率が半減しました。

データ③ 採用データ

「どのチャネルから、何名応募があり、何名が書類通過し、何名が面接を通過し、何名が内定し、何名が入社し、何名が1年後に在籍しているか」

採用プロセスの各段階のデータを記録することで、「どこがボトルネックか」「どのチャネルが効率的か」がわかります。

大阪のある住宅設備メーカー(従業員50名)では、採用チャネルごとの「採用単価」と「1年後定着率」を初めて計算しました。結果、最もコストが低いチャネル(ハローワーク)の1年後定着率が最も低く(30%)、リファラル採用は採用単価が中程度ながら1年後定着率が最も高い(90%)ことが判明。採用チャネルの配分を見直す根拠になりました。

データ④ 勤怠データ

「残業時間、有給取得率、欠勤率」

勤怠データは、メンタルヘルスの早期発見にも役立ちます。残業時間の急増や有給取得率の低下は、過労やストレスのサインかもしれません。部署別、個人別のデータを定期的にモニタリングすることが重要です。

データ⑤ 人件費データ

「人件費総額、一人あたり人件費、人件費率(売上に占める人件費の割合)、労働分配率」

人件費は多くの中小企業にとって最大のコスト項目です。このデータを正確に把握し、経営指標として管理することが、「経営数字から発想する人事」の基盤になります。

京都のある印刷会社(従業員40名)では、「一人あたり売上高」と「一人あたり人件費」の比率を四半期ごとに計算し、経営者に報告しています。「一人あたり売上高が前年比5%下がっている。その原因は受注減か、人員増か、生産性低下か」——こうした分析が、経営判断の材料になっています。


データを「経営に響く形」で伝える

データを集めるだけでは不十分です。それを「経営に響く形」で伝えることが、データ活用の真価を発揮するポイントです。

コツ① 「数字→お金→意味」の順で伝える

「離職率が15%です」→「これにより年間約○万円のコストが発生しています」→「この投資で改善すれば、○万円のリターンが期待できます」

数字を「お金」に変換し、さらに「経営にとっての意味」まで踏み込んで伝える。この「翻訳」ができることが、経営者との対話の鍵です。

コツ② シンプルな可視化

複雑なグラフは不要です。棒グラフ、折れ線グラフ、シンプルな表——経営者が「一目でわかる」形で可視化することが大切です。A4一枚に収まるダッシュボードが理想的です。

コツ③ 「比較」で語る

数字の意味は、「比較」によって明確になります。前年比、業界平均比、部署間比較——「うちの離職率は15%」だけでは意味がわかりませんが、「業界平均が10%なので、5ポイント高い」と比較すれば、問題の大きさが伝わります。


中小企業に合ったツールの選び方

中小企業の人事データ管理には、自社の規模とリソースに合ったツールを選ぶことが重要です。

段階① まずはExcelで十分

従業員100名以下の企業であれば、Excelで十分にデータ管理ができます。大切なのは、「正確なデータ」を「定期的に更新」し、「分析に使える形」で整理しておくこと。

Excelのテンプレートを一度作ってしまえば、毎月のデータ更新は30分もかかりません。「人員構成」「離職状況」「採用状況」「勤怠状況」「人件費」の5つのシートを作り、月次で更新するだけで、人事データの基盤は完成します。

段階② クラウド型の人事労務システム

データ量が増えてきたり、複数の拠点でデータを共有する必要が出てきたら、クラウド型の人事労務システムの導入を検討します。月額数千円〜数万円で利用できるサービスも多く、中小企業にとっても現実的な選択肢です。

段階③ 本格的なHRテックツール

さらにデータ活用を深化させたい場合は、ピープルアナリティクス機能を持つHRテックツールの導入を検討します。ただし、ツールの導入は「目的」ではなく「手段」です。「どんな経営課題を解決するために、どんなデータ分析が必要か」を先に明確にし、それに合ったツールを選ぶことが重要です。


データ活用の「落とし穴」を避ける

人事データの活用には、注意すべきポイントもあります。

落とし穴① データの「正確性」を軽視する

不正確なデータに基づく分析は、間違った意思決定を招きます。データ入力のルールを統一し、定期的にデータの正確性をチェックする仕組みを整えることが不可欠です。

落とし穴② 「分析」が目的化する

データを分析すること自体に満足し、「で、何をするの?」という行動に結びつかないケースがあります。データ分析は「意思決定を支援する手段」であり、最終的には「何かを変える」ためのものです。

落とし穴③ プライバシーへの配慮を怠る

人事データには個人情報が含まれます。データの取り扱いルール、アクセス権限の管理、個人を特定できる形での分析結果の公開を避ける——こうしたプライバシーへの配慮は不可欠です。


「データで考える人事」への第一歩

人事データの活用は、大企業だけのものではありません。中小企業こそ、限られたリソースを効果的に配分するために、データに基づく意思決定が必要です。

最初の一歩は小さくていい。まずは、5つの基本データを整備し、月次でモニタリングする習慣をつける。それだけで、「勘と経験の人事」から「データで考える人事」への転換が始まります。

そして、データを「経営の言語」に翻訳して経営者に伝える。「離職率が○%で、コスト影響は○万円。対策の投資対効果は○倍」——こうした対話ができるようになれば、人事は経営の「パートナー」としての存在感を発揮できるようになります。

関西の中小企業が、データの力を活用して、より良い人事判断を行い、経営に貢献する人事を実現していくこと。その第一歩を踏み出す企業が一社でも増えることを願っています。


まとめ:人事データ活用スタートチェックリスト

  • [ ] 全従業員の基本情報が一元的に管理されているか
  • [ ] 過去3年間の離職データが部署別・年次別に整理されているか
  • [ ] 採用プロセスの各段階のデータを記録しているか
  • [ ] 勤怠データ(残業・有給・欠勤)を定期的にモニタリングしているか
  • [ ] 人件費データを経営指標として把握しているか
  • [ ] データを「A4一枚のダッシュボード」に可視化しているか
  • [ ] 経営者に「数字→お金→意味」の順でデータを報告しているか
  • [ ] データの正確性を定期的にチェックする仕組みがあるか
  • [ ] プライバシーへの配慮(アクセス権限・取り扱いルール)が整備されているか
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